
9月20日(月・祝)、東京都文京区の後楽園ホールでプロフェッショナル修斗公式戦2021 Vol.6が開催される
そのメインイベントは世界ライト級チャンピオンシップ、王者の川名TENCHO雄生×現在18歳の世界1位・西川大和の一戦だ。
修斗のベルトを獲得後、北米のPFLや国内でもRIZINで苦杯を舐めてきた川名の目に、上り調子の西川の存在は、どのように映っているのか。
2021年、修斗で最も注目を集める世界戦を、チャンピオン川名が語りつくす!
――世界チャンピオンシップが目前に迫っています。相手は現在注目を集めている西川大和選手ですが、どんな印象を持っていますか。
「すごくシンプルに言うと――どうとも思っていないんですよね(苦笑)」
――えっ、どういうことでしょうか。
「ムチャクチャ強い、という印象はないです。もちろん弱くは選手ではないです。ただ、今は18歳という若さと、今のMMAでは珍しいスタイルで戦っているから、注目を集めていると思うんですよ」
――それは下になって極めるという部分ですか。
「そうですね。今回、僕と戦ううえで、ちゃんと現在のMMAをやってくる可能性もあるし、それはそれで良いと思いますよ。でも、自ら下になって極めるスタイルでやってきたのに、現在のMMAにアジャストしてきたら――面白くないですよね」
――面白くない、というのは……。
「やっぱり今のMMAでは、下になって極めに行くのは不利じゃないですか。だから見ていて面白い部分はあるんです。一方で、MMAにおけるゲームコントロールにアジャストしてきたら、勝つための手段としては正解だけど、つまらない選手になってしまうなと思います」
――反対に、西川選手の良さが消えてしまうのでしょうか。
「今RIZINで猛威を振るっているボンサイ柔術、ホベルト・サトシ・ソウザとかクレベル・コイケぐらい柔術ができるのであれば、下になっても全然問題ないと思います。でも、これまでの試合を見る限り、そこまでグラップリングや柔術の技術が高いわけではないんですよね。太尊伸光戦でも下から三角の形に入ってから、極めるまでに何分かかっているんだよって」
――……。
「僕は、しっかりトップゲームをやります。テイクダウンして抑え込んでいけば、下から極めるのは難しい。誰もがそういう発想になりますよね。そこでテイクダウン勝負ではなく、あえて下から極めに来るなら面白いですけど」
――そうですね。西川選手はこれまで川名選手のような、テイクダウン→ポジショニングの展開が強い選手との試合経験は少ないかもしれません。
「彼の動きを見ていると、倒して一旦止まってからグラップリングがスタート、という展開に見えるんです。でもMMAはそうじゃないですよね。自分自身もそうだし、僕が対戦してきた相手も、テイクダウンしながらポジショニングを意識していたり、ポジショニングのことを考えながらテイクダウンしているので」
――それが現在のMMAの攻防ですね。
「もちろん彼からテイクダウンを仕掛けてくることもあると思います。そこでスクランブルの攻防になるでしょうし、僕がテイクダウンに行ったところをカットして削るのか。あるいは彼がテイクダウンして削ってくるのか。グラウンドよりも、スクランブルも含めてスタンドの攻防がポイントになるでしょうね。どちらがスタンドで有利に立てるか」
――なるほど。
「西川選手は、小さい頃から格闘技を始めて、いろいろ積み重ねてきて、太尊選手に勝って地位は得られているでしょう。でも、選手として化け物レベルかといえば、そうではない。化け物レベルなら、太尊戦も1Rからフルボッコにしていますよ。わざわざ下になる必要もない。本人は努力してきたのでしょうけど、人並みの選手だなって思います」
――厳しい意見ですね。
「なぜそう言えるかというと、僕も人並みの選手だからです。人並み代表といいますか(笑)」
――人並み代表が、修斗のチャンピオンに?
「そうなんです。自分も基本的には運動ができない人間でした。柔道をやっていましたけど、大会に出ても1回戦か2回戦で負けることが多かった。そんな人並み以下の運動神経の男が、負けてはいますけどバックボーンが格闘技エリートだった人と試合できているのは、高3からMMAを始めていたからではないかと。当時だと高3でMMAを始めるのは、早いほうだと思うんです」
――川名選手は現在31歳。10年以上前だと、そうかもしれないですね。
「そう考えると今の西川選手は、自分でMMA選手としての幅を狭めているんじゃないでしょうか。彼のインタビューを見ると、UFCに行きたいと発言していますよね。修斗のベルトを獲ったら、海外に行こうと思っているのかもしれないですけど」
――目指すのはUFCやONEなど、海外のイベントのようです。
「それなら、中学を卒業してすぐ海外に行ったほうがよかったんじゃないですか。金銭的な面は抜きにして。今からでも遅くはない。短期の格闘技留学とかじゃなくて、3年とか海外でMMAを学んでから、改めて国内で練習の地盤を築いたりとか。今、若いうちにやっておいたほうがいいと思いますよ」
――お話が西川選手へのアドバイスのようになっていますね。
「もったいないじゃないですか。西川選手って、すごく良い子だと思うので。でも今、人の目を引いているのも、現在のMMAの逆を行くスタイルだから。年齢を外すと、彼ぐらいのレベルはゴロゴロいるんです。そこまで器用なタイプではないし、身体能力もアスリート的かといえば、そこまでではない。これから5年が勝負じゃないですかね」
――今の段階では、川名選手に勝って修斗のベルトを巻くレベルではない、と。
「僕がチャンピオンとして、しっかり勝つことは当たり前です。それと同時に、業界全体を考えると、若い選手を成長させる糧となることができるかどうか。西川選手が自分との試合を経験することで、自分の殻を破れるかどうかが大切なんじゃないかと思います」
――西川選手にとっての壁になるということですか。
「自分がしっかり勝ちつつ、西川大和のからも破らせる。それが今回のテーマですね。僕は修斗のチャンピオンとして、修斗伝承の理念に基づいて試合をします。修斗伝承の、伝承という部分を大事にしたいです」
――川名選手がZSTでプロデビューしたのが2009年、ベテラン選手だからこそ言えるメッセージですね。
「僕自身が、若い時から上の人たちと凌ぎを削ってきましたから。若い選手の強いところも分かっているし、その強いところを殺す方法も分かっています」
――川名選手のスタイルは、RIZINのリングよりも修斗のケージのほうが生きるのではないかと思います。
「リングとケージの違いというか、対戦相手にもよるんですけど、西川選手がケージをうまく使っているイメージはないですよね。こちらは、マモルさん仕込みのケージワークですから」
――川名選手は、元修斗世界王者であるマモルさんの「マモル塾」に参加されているのですよね。
「はい。マモル塾はほぼ技術練習で、主に体の使い方というかマモル式ムーブメントを学びます。マモルさんって、コツをすごく知っている方なんです。そのコツを教わると、いろんなことに応用できる。コツを知るだけで、こんなに違うのかと、気づきが多いですね」
――分かりました。では次の世界チャンピオンシップはどんな試合を見せたいですか。
「試合で相手の心を折るのは、KOするより難しいと思っています。僕には華麗に極めるサブミッションも、一撃必殺の打撃もありません。でも、試合では相手の心を折りに行きます。どれだけ相手の心を傷めつけるか――そんな自分の真骨頂をお見せします」