
9月20日(月・祝)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるプロフェッショナル修斗公式戦2021 Vol.6では、世界バンタム級8位の後藤丈治が、元環太平洋王者の石橋佳大と対戦する。
北海道でMMAを始めた後藤は、北海道大学を卒業後に上京し、現在のTRIBE TOKYO MMAに所属した。
パンクラスを経て、現在は修斗に参戦し3勝1敗の戦績を残している。そんな後藤に、修斗での戦いで見せてきた変化と、石橋戦への意気込みを訊いた。
――石橋佳大戦を約1週間後に控え(取材は9月11日に行われた)、現在の練習状況やコンディションはいかがでしょうか。
「今は追い込み練習も終えて、試合に向けてコンディションを整えている期間です。試合の準備としては相手の対策を考え、そこに向き合って練習してきました。特に何か新しいことをやってきたわけではなく、いつもどおりの練習をしてきたというところです」
――後藤選手は過去3戦……2020年9月の藤井伸樹戦(判定負け)、同年12月の服部賢太戦(KO勝ち)、そして今年3月のフルスイング魚井戦(判定勝ち)で、それぞれ違うスタイルを見せてきました。それは全て、もともと持っていた藤井選手のスタイルなのか、あるいは3試合を通じて見せてきた成長過程なのか興味深いです。
「僕の中では、両方の要素があります。まず、僕は『自分はこう戦わないといけない』とファイトスタイルを持っているわけではないんですね。だから試合ごとにスタイルは違うし、相手にとっては昔の僕の試合を見ても参考にならないと思うんですね」
――なるほど。では、まず藤井戦については、1Rは後藤選手が攻め込みながら、2Rから相手のテイクダウンとバックコントロールに苦しみ、判定負けを喫しました。
「あの試合は、負けるべくして負けたと思っています。たとえばテイクダウンにしても、みんなが普通に知っている技術や戦い方を、僕が知らなかった。……というより、僕が知らないことを周囲も分かっていなかったし、僕自身も気づいていなかったんです」
――後藤選手はプロデビューからパンクラスで戦い続け、パンチによるKO勝ちが多かったです。藤井戦のような攻防の経験が少なかったのでしょうか。
「特にテイクダウンディフェンスに関しては、練習はしていたものの、自分の中でしっかりと落とし込めていませんでした。そこが、藤井戦で露わになったということですね。いろんな対処の仕方に、不明瞭な部分がありました。それに気づくことができたという面では、僕にとって貴重な経験ができた試合です」
――その藤井戦では、姿勢がややクラウチングスタイルであったのに対し、続く服部戦では後ろ重心で上体も起きていました。結果は左ミドルを効かせてから、左ストレートでKO勝ちを収めています。
「服部戦も、2つポイントがありました。1つめのポイントは、パンチで倒そうと思っていたこと。もう1つのポイントは……試合前に右ヒザを負傷してしまったんです」
――あの時、右ヒザにテーピングをしていた理由は、負傷していたのですか。
「そうなんです。あれは12月19日に試合したのですが、12月に入ってからは練習もできず体重を落とすことだけに集中していました。それもあって、試合では相手に一瞬の隙があれば、その隙を狙って倒す。どちらかというと、賭けに近い試合でしたね」
――結果として、その賭けに勝った形となります。特に左ミドルの使い方が印象的でした。
「パンチで倒すために、まず蹴りに対する相手の反応を見ていました。左ミドルがボディに当たって相手が嫌がったので、次は下がるか、ステップインしてくるか――ステップインしてきたところに左ストレートを合わせて倒すことができました」
――見事、読みが当たったわけですね。国内MMAでは後藤選手のように、相手のボディをえぐるような、効かせる左ミドルを打つ選手も少ないのではないでしょうか。
「左ミドルは得意な技の一つです。UFCでも、エジソン・バルボーザやジャイー・ロドリゲスの左ミドルが好きで、よく試合を見ます。そのバルボーザをKOしたギガ・チカゼも、左ミドルが凄かったですよね」
――左ミドルの話になると、少しテンションが上がりましたね。それだけ左ミドルが好きなことは伝わります。
「でも、昔は左ミドルを一切蹴ることができなかったんです」
――昔から得意技ではなかったのですか。
「左ミドルを身につけたのは、2017年にキックボクシングのRISEに出場した時です。キックの試合に出るから、左ミドルを蹴ることができないといけないなと思い、当時所属していた北海道のキックボクシングのジムで教えていただきました。左ミドルが得意になったのは、それからですね」
――そうだったのですね。ただ、MMAであれだけ左ミドルを強く打つのは、相手がテイクダウンを合わせてくる不安はないのですか。
「蹴りだけではなく、今はテイクダウン全般に不安はないです。左ミドルも、相手は僕のミドルが見えていないなと感じます」
――今年3月のフルスイング魚井戦は、その左ミドルを中心に相手をコントロールして判定勝ちを収めています。そのスタイルは、藤井戦とも服部戦とも違っていました。
「あの試合の作戦は、『行くな』でした。練習もそうですし、試合もセコンドからは『行くな!』という指示が飛んでいました。普通は『行け!』だと思うんですけど、魚井戦は違っていたんです」
――それは、魚井選手のフルスイングを警戒しての戦術だったのでしょうか。
「そうです。長南(亮/TRIBE TOKYO MMA代表)さんと特訓していたのですが、長南さんが14オンスのグローブをつけて、フルスイングしてくる。僕はそれが届かない距離で戦う。長南さんのフルスイングはもう……プレッシャーが怖かったですよ(笑)」
――あれだけコントロールできていると、途中でKOを狙いに行きたくならなかったのですか。
「はい、行きたいという気持ちは出てきました。でも結果として、今までの試合の中で一番、自己満足感は強かったです。KOで勝つことができれば、見栄えはいいですよね。でも逆に、偶発的に勝ったという感覚もないわけではなくて。それが魚井戦では、3Rミスなく戦うことができたのが、自分としては大きな自信になっています」
――それだけ、この3戦でいろんな自分を見せ、そして様々な要素を得ることができたのですね。では、次の試合の相手である石橋佳大選手の印象を教えてください。
「ガッツのある、マッチョなグラップラーですね。石橋選手も藤井選手と対戦していて(2019年5月、KO負け)、『自分が藤井選手だったら、この場面はどうしていたか』という視点で試合を見返したんです。その結果、僕は石橋選手を圧倒できるんじゃないかなって思います。『石橋選手は、この場面で組み負けるんだな』とか、自分も対戦したことのある藤井選手との試合を見ることで、より分かりました」
――ただ、それは石橋選手の立場からも同じことが言えるのではないでしょうか。
「いえ、それは最初に言ったとおりです。次の試合に向けて、僕の過去の試合を見ても、何の参考にならないですから」
――そうでしたね。石橋選手を圧倒する……そこにはKOを狙うことも含まれていますか。
「KO勝ちできれば大きいと思いますね。勝つことは大事ですが、もちろん格闘技には『殺るか殺られるか』といった要素もあって、KO勝ちも僕の存在を大きく印象付けられると思うので」
――後藤選手にとって、MMAを戦ううえでの目標は何なのでしょうか。
「一番大きな目標は、皆さんの記憶に残る試合をすることです。長南さんがアンデウソン・シウバにフライングヒールで勝った時のような。そのうえで修斗のベルトも狙いたいですし、その先にはUFCやベラトールなど北米の大会に出たいと思っています」
――その目標は、いつ頃までに叶えたいという目標はありますか?
「20代のうちに到達したいと思っています。今の僕を知っている人は、『そんなの無理だよ』と言うかもしれません。でも僕の一番の武器は――自分で言うのも変ですけど――ポジティブさだと思っています。次の試合では石橋選手を倒して、早く上に登っていきたいですね」