11月6日(土)、東京都江東区のスタジオコーストで『VTJ2021』が開催される。
2016年9月19日の『VTJ 8th』以来、約5年ぶりに行われる今大会で、元修斗世界バンタム級王者の佐藤将光が、Fighting NEXUS同級王者の河村泰博と対戦することとなった。
現在ONE Championshipと契約中の佐藤にとっては、2019年10月に行われたONE日本大会以来の国内での試合となった。
修斗のベルトを返上し、ONEに参戦した佐藤だが、なかなか試合が組まれないなかで決定した今回のVTJ参戦だ。
11月6日の試合が正式発表されたのは10月27日――この短いスパンで、佐藤はどのようにモチベーションを構築し、河村と対戦するのか。
そこには佐藤の格闘技観、そして強さの秘訣が見えた。
――今年2月5日にONE Championshipでファブリシオ・アンドラジに敗れて以来の試合を迎えます。まず、このタイミングでVTJ出場を決めた理由から教えてください。
「まず、試合がしたい。この気持ちが強かったです。ONEの本戦で試合ができるのが一番良いんですけど、ONEの本戦出場が決まっている選手もいるなかで、僕にはなかなか声が掛からなくて……。それで日本でも試合ができないかなと思っていたところだったんです」
――そのタイミングで、VTJ出場のオファーがあったのですか。
「最初は……今年の夏ぐらいかなぁ。VTJが行われるよ、という話はボンヤリ聞いていたんです。その時は僕も『へぇ、そうなんですね』という感じでした。その一方で、ONEの試合がないなかで、マネージャーから『VTJは出られますか?』という連絡が来て」
――ようやく試合をするチャンスが来たわけですね。
「僕としては『出られますけどONEとの契約上、大丈夫なんですか?』と答えました。ただ、修斗とONEは提携していますし、ONEから許可が下りれば出られるんじゃないか、というお話だったんですね。だから最初は、本当にVTJで試合ができるのかどうか、よく分からない状態でした」
――それが正式決定したのは……。
「正式決定の前に、ABEMAさんのVTJの告知映像に、僕が出ていたんですよ。そこで『VTJで試合あるんだな』と思いました(笑)」
――本人が知らないうちに(苦笑)。その経緯からも、試合を組むまでの関係者の苦労が分かりますね。
「そうですね……。それで僕に正式決定の連絡が来たのも、発表の3日か4日前だったと思います(佐藤のVTJ出場は、10月27日に発表された)」
――とはいえ、待ちに待った試合だったのではないでしょうか。
「はい。アンドラジとの試合は1月末で、それがディレイで2月5日に放送されて……半年以上の間、ずっと試合をしたいという想いを持っていました。ONEは試合を組んでくれないのかなぁ、と。ちょうどONEとの契約更新時期でもあるので、今後どうしていくかはマネージャーやONEとも相談しています。僕はもっともっと、たくさん試合をしたいと思っているんですけどね」
――アンドラジ戦の前も、2020年1月のクォン・ヲンイルに三角絞めで勝利してから1年もの期間がありました。
「その間も、ずっとモヤモヤしていましたよ。コロナ禍ということもあったかもしれないですが、あの時期はONEの意向が見えませんでした。今でこそマット・ヒューム(ONEのマッチメイカー)と、マネージャーを通じて話をしていますけど」
――今回の河名泰博戦の正式発表が10月27日で、試合は11月6日に行われます。試合に向けての準備はできているのでしょうか。
「まあまあ突然ですよね(苦笑)。でも、ずっと試合ができる準備はしていましたから。それよりも、試合が決まった時の『来た!』っていう感覚が久々で」
――そこから短期間で、試合へのモチベーションを上げられるものなのですか。
「気持ちの作り方は、これまでと変わらないですよ。まったく変わらないです。ずっと練習はし続けていましたし、試合が決まってから練習の内容を変えることもないので。試合が決まってから相手の研究をすることが久々だな、っていうぐらいです。でも、ひとつギアが入るというか、どこかでスイッチが入っている感覚はあります」
――今回はどの時点でギアが入った感覚がありましたか。
「ずっとONEとの契約を確認してもらっていたので、本当の決定までは、どこかスイッチが入らなかったというか。正式発表されて初めて、気持ちがONになった感じがあります」
――まず対戦相手の候補に河村選手が挙がった時点で、河村選手の情報はあったのでしょうか?
「最初に話が来た時は、まだ試合映像も見ていなかったです。もともと知っている選手でしたから。名前を聞いたら想像はつきますし、ファイトスタイルもなんとなくは……。ONEの許可が下りて、VTJで試合ができるとなってから映像は見たんですけど、映像を見てみると想像とは少し違いましたね」
――違い、とは?
「寝技の選手かな、という印象を持っていたんですよ。でも試合映像を見ると、ガードからの仕掛けだったり、スタンドもそれなりにやってから寝技に行くんだなぁ、という印象があったりしました」
――バンタム級では身長も高く、リーチもあって……と体格面では佐藤選手と似たところもあります。
「でもファイトスタイルは、まったく違いますよね。よっぽど寝技に差がないと、僕は自分から下にはならないです。あとは打撃のインファイトですか。インファイトとかケージ際の削りの部分は、彼は付き合わずに引き込んだり、一発大きい技を狙ったり。あとはテイクダウンを取るというより、スクランブルから上を取るっていうタイプな気がします」
――そんな河村選手に対する試合展開のイメージは固まっていますか。
「今はもうイメージが固まっています。ゴングが鳴って遠い距離から、どう作っていくか。組んだらこうして、寝たらこうしてとか――僕は割と決め込むタイプなので」
――試合へのイメージを固めるには、この期間は十分だったのでしょうか。
「いつも決めながら練習して、修正して、また映像を見て『こっちのほうがハマるんじゃないかな』と磨いていく作業があります。今回、その時間と回数は少ないですよね。でも、相手も条件は同じですから」
――河村選手は自身のYouTubeチャンネルで、「今回で終わってもいいという気持ちで挑む」と意気込みを語っています。
「それは、みんなそうですよね。だから、試合で見せてくれよって」
――では、佐藤選手は次の試合で何を見せたいですか。
「まず前回負けちゃっているので、もう1回期待を持ってもらいたいです。あとは『佐藤将光の試合ってこうだよね』っていうのを、試合を通して伝えたいですね。やっぱりフィニッシュに向かっていく試合をしたいし、僕自身のパフォーマンスを最大限に発揮したいというのが一番です」
――なるほど。
「あとは数少ない、僕を応援してくれている人がいるので、その人たちに向けて戦いたいです。プラス他の方も見て、面白いなぁと思っていただければ」
――分かりました。今後もONEを中心に試合をしていくということは変わらないのでしょうか。
「一番は、試合を定期的に組んでほしいということですね。そこを今、ONEと話をしているところです」
――ONEも再びコロナ禍の影響で、今年12月の大会が延期されることとなりました。また試合が組まれづらくなるかもしれません。そんななかで、モチベーションを保つことはできるのか……。
「あぁ、僕ってモチベーションが落ちるとか、よく分からないんですよね。ただMMAが好きだからやっているというか。この先も、生活に支障の出るレベルのケガとかしないかぎりは続けちゃうんだろうな、って思っています。それが怖いですよね、アハハハ」
――怖いと言いながらも、楽しそうに聞こえるのが不思議です。
「常に練習は楽しいです。プラス、試合が決まると脳内麻薬がメチャクチャ出るというか。もうMMAに憑りつかれちゃっていると思うんですよ。だから今は、試合に対する禁断症状が出ているんじゃないですか(笑)。試合がなくても練習はしていますし、加えて今は、試合の刺激が欲しくて仕方ないです」