――えっ!? 公園ですか。
「普通の広場がある公園ですよ。今はいろんな方が参加するようになりましたけど、最初は土屋さんが仕事を終えたあと、僕のミットを受けるためだけに公園へ来てくれていました。夜9時ぐらいになると、公園から追い出されるんです（笑）。そんな時間まで一緒にやってくれていました。そんな状況でも僕が土屋トレーナーにミットを持ってもらうのは、やっぱり人間関係です。
土屋さんが僕のミットを持ってくれたり、僕が勝つことに対して喜んでくれる。土屋さんが喜んでくれるのは僕も嬉しい。もちろんパンクラスイズム横浜の人たちも、僕と一緒に練習してくれるのは嬉しいです。人間って年を取ると、どんどん人が離れていくじゃないですか」
――……。
「そのなかで自分を認識してくれている人たちの存在に、ありがたみを感じるようになりました。自分のために何かしてくれる人に対して、感謝の気持ちしかないですよね」
――どんどん人が離れていくなかで、なぜ土屋トレーナーはDJ選手のミットを持っているのかはご存じですか。
「いやぁ、どうなんだろう……。『僕みたいなトレーナーが、DJさんのような有名選手のミットを持たせてもらえて』というふうには言われます。僕に対して敬意を持ってくれているというか。僕はミットを持ってもらって嬉しい、土屋さんは僕が勝つと嬉しい。そういう関係です」
――一方だけが求めているわけでなく、お互いに必要として関係が成立している。とても良い関係だと思います。
「まぁ、どうなんですかね（苦笑）。僕も若い頃は調子に乗っていて……。今考えると、それは構ってほしかっただけで。構ってくれている人もいたし。ただ、構ってくれる人もいれ離れる人もいる。でも、今も自分がMMAを続けているのは、パンクラスイズム横浜の人たちもそうだし、そういう人たちと出会わせてくれたのが格闘技だからですよ。僕にとって、格闘技というものが本当に大きくて」
――なるほど。技術面に関して、土屋トレーナーの指導で向上した部分はありますか。
「技術というより、集中力ですね。5分5Rで、しかも最初から追い込んでくれるんですよ。本当にキツくて、最初は3Rぐらいまでしか続きませんでした。でも、やっていくうちにラウンド数も増えていって。今は土屋さんのほうが疲れている状態になりました（笑）。とにかく若い時よりも集中力は増しています。僕が25歳の時、35歳のトレーナーから『自分の年になると、こんな練習できないからな』と言われたけど、その時よりキツい練習をやっていますからね。なぜかって言うと、オジサンが若い選手と同じ練習をしていたら勝てないですから。若い選手よりも頑張らないといけない。仕方ないですよ、オジサンだから（笑）」
――それだけ集中力を高めて練習できているなか、迎える鹿志村戦についてお聞きします。こういった場合、DJ選手から誰と対戦したいという希望を出すことはあるのですか。
「ないですよ。希望を言うなら、こんな寝技系の選手と試合するはずがない（笑）。自分は前回負けていて、相手を選べる立場じゃないです。だから『相手は誰でも良いです』と伝えていました」
――では、その鹿志村選手の印象を教えてください。
「今どき珍しいぐらい、寝技に全振りしていますね。なかなか難しい相手ですよ。ああいうタイプって練習相手でも、なかなかいないので。僕は打撃だけじゃなくて、トータルで考えていますよ。MMAはMMAなので、どこかに偏りがあってはいけない。柔軟に考えないといけないですよね。そこはセンスの問題だし、自分はMMAのセンスで上回っていると思います」
――先ほどの発言をそのまま受け取ると、寝技の選手とは対戦したくないのかどうか……。
「相手は自分の得意なところで勝負してくれないから、気持ち良くはないですよね。ただ、自分も気持ち良くなるために試合しているわけではないので、頑張らないといけない。こちらも相手の得意な展開に付き合わないし、どちらが自分の土俵で勝負できるかがポイントになるんじゃないですか。その部分では、相手の前回の試合は参考になります」
――この取材は試合の1週間前に行われています。すでに追い込みの練習は追えているのでしょうか。
「はい。追い込みの後に減量期間を設けないといけないので、今は体重を落としているところです。だから試合で自分が何をするかは、もう決まっていますよ。もう一度タイトルマッチをやるなら、順番を待たないといけないし、そこまで勝ち続けないといけない。その間に、もしかしたら引退試合が組まれるかもしれない。今の状況は、自分のキャリアを考える良い機会だと思っています。でも一つだけ言えるのは、自分がやりたいからやる。それだけですよ」
