
9月20日(月・祝)、東京都文京区の後楽園ホールで『プロフェッショナル修斗公式戦 PROFESSIONAL SHOOTO 2021 Vol.6』が開催される。
そのメインイベントは、世界フェザー級チャンピオンシップ、王者・川名雄生に、現在18歳の挑戦者・西川大和が挑む一戦だ。
現在、プロ修斗では5戦5勝。修斗のベルトを獲得し、海外のビッグイベント出場を目指す“驚異の18歳”が語るMMA、そして修斗のベルトとは――
――世界チャンピオンシップを3週間後に控えていますが(取材は8月28日に行われた)、すでに練習スケジュールでいっぱいのようですね。
「はい。日曜日以外は練習しています。でもそれは普段からで、世界チャンピオンシップがあるからどう――というわけではないです」
――世界チャンピオンシップに向けた練習ではないのですか。
「そういうわけではないですね。多くの選手が、チャンピオンシップ前で追い込みの練習がどうとか言うじゃないですか
――チャンピオンシップの前に、トレーニングキャンプを行う選手は多いです。
「僕は、そういう追い込みとかはなくて。5分5R用の練習というのも全くないです。来週、2回ぐらいスパーリングをやりますけど、それも試合の感覚を思い出す程度のものです」
――なるほど……それだけ世界チャンピオンシップだからと、気負っているわけではないことは伝わります。では、その世界戦のオファーが来た時は、どのように感じたのでしょうか。
「修斗に出場するようになって1年と少し、早くチャンピオンシップまでたどり着けたな、と思います。自分でも修斗に出始めた頃は、もっと長くかかると思っていたので」
――修斗初参戦が2020年5月、そこから5連勝で世界戦にたどり着きました。
「トントン拍子で世界戦を迎えるので、『凄い』とか『早いよね』と言ってくださる人もいます。反対に、僕のことを子供の頃から知っている人は『大和なら普通じゃないか』と思ってくれていますね」
――普通……ですか!?
「そうなんです。『大和だったら、ちょっと遅いぐらいじゃないか』という感じですね。MMAを始めてから、トントン拍子で行けない選手のほうが多いじゃないですか。僕に対しても、『もっとキャリアを積んだほうがいいんじゃないか』と言う人もいますし。でも僕は、アマチュアから40戦ぐらいやっていて、もう競技年齢は高いと思うので」
――競技年齢でいえば、確かにそうですね。
「那須川天心選手や、キックボクシングでも子供の頃から試合に出ていて、場慣れしていますよね。僕も、その経験は強みだと思っています」
――一方で、『もっとキャリアを……』という声も聞こえてきているのですか。
「そういう声は、昔からあります。SNSで言ってくる人もいますし。でも最近は、そういうのも気にしていません。何か言ってきても、そこに触れることもない。そんな声に対応するより、大切な時間を自分の今後に投資したいので」
――十代で精神的にそのような域に達していることも驚きです。
「昔から父親からも言われていたんです。他の人に何か言われても、痛くも痒くもないじゃないかと。SNSでアンチに食ってかかる人もいますけど、僕は笑って『こういうふうに考える人もいるんだよなぁ』というぐらいにしか思っていないですね。そういう声をイチイチ気にしている時間は、僕にはないですから」
――分かりました。試合の話に戻りますが、今年5月に世界ランキング1位(当時)の大尊伸光選手を三角絞めで下し、今回の世界チャンピオンシップに繋がりました。まずは前回の試合から振り返っていただけますか。
「大尊選手が世界1位だったので、前から『大尊選手と対戦したい』と言っていました。それから、マネージメントの方がプロモーターさんと話をしてくださっていたので、僕の中では『この試合に勝ったら世界戦は決定かな』と思っていたというか、そう願っていました」
――結果は大尊選手にトップを奪われながら、下から三角絞めを極めています。
「最初は5分3R――ユニファイドでは公式の試合時間を全部使って極めようと思っていたんですよ。でもあの三角は、『次のラウンドを捨ててもいいや』という気持ちで極めに行きました」
――それは1Rと2Rを取って、3Rは相手のラウンドになっても勝てる、というポイント計算が頭の中にあったのでしょうか?
「そういう考えもありましたけど……3Rも取りに行けるとも思っていました。よく『5分3Rと5分5Rではスタミナの使い方が違う』と言いますよね。でも僕は、5Rフルに動けるスタミナと、5Rスタミナを持たせることは違うと思っているんです」
――どういうことでしょう?
「5Rフルに動けるスタミナがあることも大切だとは思いますけど、結局はスタミナって切れてしまうものなんですよ。それよりも試合の運び方を考えて、スタミナを持たせる技術を磨く。そのほうが大切だと考えています」
――ということは、大尊戦も試合前から試合の運び方が頭の中で出来上がっていたのですか。
「試合前から、ではないですね。僕は試合の中でプランを組み立てながら、ポイントも計算します。試合って1R、2Rと戦っていたら、効いているものとか相手が嫌がっているものが何なのかは分かるんです。試合中に勝敗まで分かる、といいますか」
――試合中に勝敗が分かる、というのは……。
「それだけ普段から試合運びを考え、試合中も冷静でいられるからですね。そうやって相手を見ながら、自分が勝つ鍵を握ったら、すぐに行く。仕掛けた攻撃が通用していなかったら、すぐに引く。そうやって試合を進めているので、今まで試合中に『これはヤバい!』とか焦ったこともないです」
――大尊戦の三角絞めも、ここで極めることができると判断してのものだったのですね。
「そうです。大尊選手から、落ちる寸前のような声も聞こえたので、ここは極めにいこうと考えました」
――その大尊戦で勝利して掴んだ世界チャンピオンシップは、9月20日に後楽園ホールで行われます。世界王者、川名雄生選手の印象を教えてください。
「実は、最初はチャンピオンだって知らなかったんです。しゃぶしゃぶ屋の店長さんの印象があって……」
――川名選手は「北海しゃぶしゃぶ湘南藤沢店」の店長さんで、お店のこともメディアに出ていますからね。MMAファイターとしての印象はどうですか。
「コレといった印象はないです。MMAをやっている人なんだなぁ、というぐらいですね」
――……。
「あの……こういうのって、別に相手をナメているとか、そういうことではないですから。そう言われることもあるんですけど……」
――これもSNSで言われるのですか。
「あります。『あのガキ、ナメているのか!?』なんて声があったり。相手のことをナメているとか、そういうことはないです。僕は取材で聞かれたことに、思っていることを答えているだけで(苦笑)」
――インタビュアーも、そうやって試合を煽ることも多いですしね。
「MMAの選手って、いろんなタイプがいるじゃないですか。僕は、相手のスタイルとかは意識しないんですよ」
――確かにお話を聞いたり試合を見ていると、相手がどんなスタイルであっても、自分のやるべきことを遂行しているように思います。
「そうです。試合って特別なことと考えている人もいますけど、僕はそういう感覚が全くなくて。みんなの前でスパーリングが始まる、練習と同じ感覚で臨むという感じです。普段から、そういう練習をしてきているので」
――それでは質問を変えます。修斗のベルトに対しては、どのような想いがありますか。
「修斗は歴史があって、憧れている舞台でもあります。その修斗でベルトを獲ることができれば、自分にとってもプラスになりますよね」
――プラスとは?
「修斗のベルトを巻くと、海外のプロモーターや選手が目をつけてくれる。簡単に言うと、切符ですね。修斗のベルトを獲るイコール切符を得ることで、ようやく海外で戦うための電車に乗ることができると思っています。その切符を、自分の実力で獲ります」