【コラム】【印象に残った来日外国人選手─番外編──】ギャンブルから脱却、フィジカルトレの導入。タワンチャイから知るONEムエタイ(執筆者:中村 拓己)
第9回のコラムではONE Friday Fightsのスタートにより、ムエタイを取り巻く環境が変わり、タイ人たちの意識も変わりつつあるということを書かせてもらった。
その一つの例としてスーパーレック・キアトモー9を取り上げたが、今回はさらに新しい世代のファイターとしてタワンチャイ・PK・センチャイについて書いていきたい。このコラムは「印象に残った来日外国人選手」というテーマの連載企画でタワンチャイは(おそらく)日本で試合をしたことがない選手だが、そこはご容赦ください。
さて前回のコラムでは格闘技ライターとして復帰して取材した選手としてスーパーレックの他にロッタン・ジットムアンノン、スーパーボン・シンハ・マウイン、そしてタワンチャイを取材したのだが、この中で最も若いのがタワンチャイだった。
タワンチャイは2021年5月、22歳の時からONEに参戦。翌2022年9月にペットモラコット・ペッティンディアカデミーに勝利してONEムエタイ世界フェザー級王座に就くと、2023年12月にスーパーボン、2024年6月にジョー・ナタウットの挑戦を退けて2度の防衛に成功している。
ONEムエタイ・フェザー級の頂点に君臨し、卓越したテクニックを誇るタワンチャイだが、筆者がタワンチャイに興味を持ったのはSNSがきっかけだ。試合でタワンチャイに興味を持ち、タワンチャイのInstagramをのぞいてみると、自分の私服・コーディネートをたくさん載せていて、練習風景の投稿がなかったらムエタイ選手とは思えないほど。ずばりシュッとしていてカッコいいのだ。実際にタワンチャイはONEの試合会場でも女性人気が高く、撮影会やサイン会にも長蛇の列が出来るという。タワンチャイはいわゆる強くてかっこよくてモテるファイターなのだ。
それともう一つ、タワンチャイのInstagramを見て目についたのが器具を使ったフィジカル・ウエイトトレーニングを頻繁に行っていたことだ。タワンチャイはミット打ちやシャドーボクシング、マススパーリング以外にも、頻繁に自分がトレーニングしている動画を投稿している。
ムエタイファイターと言えばジムワーク以外のトレーニングはやらずに首相撲をやり込んで体を強くするイメージがあったのだが、タワンチャイはそれと違った。タワンチャイを取材した時に、このことについて聞いてみると、タワンチャイはこう答えていた。
「ああいったトレーニングを始めたのは1年前(2022年)からで、自分のディフェンス能力を上げることが目的だ。ジムにフィジカルトレーナーがいて、そのトレーナーから指導を受けている。(どこに効果を感じる?)まず筋力がつくだけじゃなくて、体の耐久力そのものも上がる。相手が何かアクションを起こしたときに、自分のイメージ通りに身体を動かせるようになったから、ものすごくトレーニングの効果を感じているよ。
もちろん首相撲や走ることも必要な練習だと思う。ただし僕の場合は子供の頃からずっと首相撲をやっているから、それ以外の練習を取り入れることが気分転換にもなるんだ。ミット打ち、スパーリング、テクニックの練習に加えて、フィジカル的なトレーニングをやることで、練習そのものが退屈ではなくて楽しむことが出来る。そういう理由もあって、ああいったトレーニングを取り入れている」
ビジュアルもスタイリッシュでカッコいい。強くなるために新しいトレーニングも積極的に取り入れる。タワンチャイはONEによってギャンブルから脱却しつつあるムエタイの象徴的な存在だと言えるだろう。