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【コラム】【印象に残った来日外国人選手⑨】取材を通して感じたスーパーレックのスターへの道(執筆者:中村 拓己)

K-1プロデューサーを卒業して格闘技ライターに戻るにあたって、取材をしたかった選手がいる。それがONE Championshipに出場しているタイ人たちだ。

もちろんK-1プロデューサー時代からONE Championshipの試合はチェックしていたのだが、特に興味を持つようになったのが2023年にONE Friday Fightsがスタートしてからだ。

ラジャダムナンスタジアムと並ぶムエタイの2大殿堂と言われるルンピニースタジアムで始まったONE Friday Fightsシリーズは毎週金曜日夜に開催され、出場選手はタイ人が中心。ムエタイルールがメインのラインナップで、ONE Championshipが手がけるムエタイ・立ち技ルールの大会だ。

画期的だったのが通常のボクシンググローブではなく、MMAで使うオープンフィンガーグローブを着用し、3分5Rではなく3分3R制を採用したこと。試合そのものもギャンブラーのための賭けの対象ではなく、ファン・視聴者のために行われる格闘技コンテンツの試合として行われたことだ。激しい試合をした選手には高額のファイトボーナスがその場で贈られ、このファイトボーナスは勝った選手だけでなく敗れた選手に贈られるというのも特徴的だった。

そんなルール・システムのなかでONE Friday Fightsシリーズがスタートすると、ムエタイの景色がガラリと変わった。アップライトに構えて前蹴りとミドルでポイントを取って、首相撲で崩しあい、ヒジ打ちでカットを狙う。ポイントで差がついたら逆転を目指して戦うのではなく、試合を流す。そんな従来のムエタイとは全く異なり、ONE Friday Fightsのムエタイでは1Rから選手同士がパンチ・ヒジ・蹴りでガンガン打ち合って、ポイントや判定ではなくKO勝ちを狙って戦う。

ONE Friday FightsをはじめONEで行われるムエタイは、ムエタイではなく“ONEムエタイ”だと言われることもあるが、ONE Friday Fightsが始まったことでムエタイの新たな一面がクローズアップされ、ムエタイそのものが新時代を迎えたと思う。

そんなタイミングで格闘技ライターとして活動を再開することになり、ONEで戦うタイ人選手たちに「ムエタイが賭けの対象ではなくなったことをどう思うか?」とぜひ聞いてみたいと思った。幸運なことにライターに復帰して約一カ月後の9.22「ONE Friday Fights 34」でロッタン・ジットムアンノンVSスーパーレック・キアトモー9、10.7「ONE Fight Night 15」でタワンチャイ・PK・センチャイVSスーパーボン・シンハ・マウインとムエタイのビッグマッチが続き、4選手を取材することが出来た。

4選手とも「ムエタイが賭けの対象ではなくなったことをどう思うか?」という質問に対してはポジティブな意見が多く「ムエタイがギャンブルではなくなったことでギャンブラーの目を気にせず、自分のスキルや技術を存分に出すことが出来る」と声を揃えていた。

その4選手の中で最も多く話を聞き、日本でも取材することが出来たのがスーパーレックだった。ロッタン戦こそ体重超過での勝利となったスーパーレックだったが、今年1月のONE日本大会ではロッタンの負傷欠場を受けて武尊と対戦し、武尊のボディブローでダウン寸前にまで追い込まれながらも強烈なローキックで武尊の足を破壊して判定勝利を収め、一気にその名を世界に知らしめた。

武尊戦後のスーパーレックはムエタイルールで試合を重ね、9月のONEデンバー大会ではジョナサン・ハガティを右ヒジ一発でKOし、階級を超えてのキック(フライ級)&ムエタイ(バンタム級)の2冠王となった。

筆者はロッタン戦、武尊戦、ハガティ戦の前にスーパーレックを取材し、取材を通してスーパーレックがONEでスターになっていく姿を見てきた。ロッタン戦を含め、それまで体重超過を繰り返してたスーパーレックは武尊戦に向けて栄養士をつけて減量プログラムを組み、ハガティ戦に向けては高地デンバーでの対策として高地トレーニングも行った。ジムワーク以外のトレーニングを積極的に取り入れるところも、ムエタイの新時代を象徴する選手だと言えるだろう。ちなみにスーパーレックは取材をする度に持ち物や着ているものがハイブランドや高級品になっていて、その辺りの成り上がりぶりも夢があるなと思う次第だ。

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