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【コラム】【あの頃君を追いかけた⑥】キックだけじゃなく、幼少期から凄いエピソード満載の“天才少年”吉成名高(執筆者:安村 発)

 2022年6月19日に東京ドームで開催された『THE MATCH 2022』で武尊との日本最強決定戦を制しキックボクシング42戦42勝無敗のまま、ボクシングに転向した那須川天心。2023年4月にボクシングデビューし、現在は4戦4勝(2KO)。10月14日には待望の初タイトル挑戦(WBOアジアパシフィックバンタム級王座決定戦)も決まった。

その天心と同じく私がジュニア時代から取材を続けてきて、現在も物凄い結果を残し続けている選手といえば、日本人初のラジャダムナン・ルンピニー統一王者・吉成名高だろう。

名高は小学1年の時に、先に通い始めていたお兄さんの影響で極真空手を始め、「空手のためになれば」との思いで近所の久里浜にある体育館で活動しているキックボクシングのサークル「サクシード」にも通うように。サクシードの会長とのつながりで、あの真空飛びひざ蹴りで一世を風靡した“キックの鬼”沢村忠さんも練習場に来ていたことがあったという。

名高は当時の記憶として、沢村さんには一度だけミットを持ってもらったことがあり、「キックはカッコよく蹴れ!」と言われたことが凄く印象に残っているそうだ。名高のお父さんの圭宏さんは、「沢村さんが『名高は将来、凄い選手になる』と言ってましたよ」と会長から沢村の言葉を伝え聞いており、当時から彼には確かな素質を感じさせるものがあったと推測される。

天心親子と同様に名高も柔道と寸止め空手の経験があるお父さんとのジム、そして道場以外でも練習もするという環境にあった。そこで三日月蹴り、前蹴りの100連発の特訓をしていたことで空手のジュニア大会では「名高の顔面前蹴りには気をつけろ」と騒がれていたという。

器械体操の経験があるお母さんの遺伝子もあってか、名高は身体能力も高く、幼少期にはお店のカウンターによじ登って懸垂をしたり、誰かに教わったわけでもなく、バク宙も我流で普通にこなしていたという。空手の昇級審査の項目で倒立前転の種目があったことで、体操を習っていたこともあり、指導者から「本格的にやりませんか?」とスカウトがあったほど。

お父さんいわく、「名高が凄いと思うのは1つのことにのめり込んだら、徹底してそれをやること。例えば、空手やキックの技1つにしても、『どうやったらできるんだろう』とひたすら反復するんです。自分が興味あることにも徹底していた」とのこと。

空手やキックのことだけでなく、私生活でもそれは変わらず、20巻以上ある漫画のうちの1巻に興味を持ったら、新刊が出てもずっとその巻ばかりずっと読んでいたという。「トイレにいつもその巻だけ置いてあって『もう読み終わっているのに、こいつ大丈夫か?』と心配になった時がありました」(父)。

タイの首都バンコクの正式名称(クルンテープ・マハーナコーン・アモーン・ラッタナコーシン・マヒンタラー・ユッタヤーマ・ハーディ・ロック・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニー・ブリーロム・ウドムラー・チャニウェート・マハー・サターン・アモーン・ピマーン・アワターン・サティット・サッカタッティヤ・ウィサヌカムプラシット)や、ピカソの本名(パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ)に興味を持てば、中学生だった彼は僅か30分ぐらいで覚えたという。その集中力、ジュニア時代に“天才少年”とのニックネームが付いていた名高だが、こういうことだったのかと妙に納得してしまった。

アマチュアキック時代、小学5年生だった名高はアマチュアデビューし3連勝していたが、4戦目でアマチュア二冠王の奥脇竜哉との対戦に敗れた。この敗戦をきっかけにして、竜哉が在籍し現在の所属先である横浜のエイワスポーツジムでの練習を始めた。

ジュニア時代の名高(左)と竜哉(右)の二人だ。両者は9月1日に横浜大さん橋ホールで開催されるBOM47に出場。名高はWBCムエタイ ダイヤモンド スーパーフライ級タイトルマッチ、竜哉はWBCムエタイ世界フライ級タイトルマッチに挑む

当時の私は武居由樹、石井一成、福田海斗、伊藤紗弥といった後にチャンピオンとなる選手たちが多く出場していた『WINDY SUPER FIGHT』の取材を頻繁に行っており、名高が出場していたBOMプロモーション主催のジュニア大会を取材する機会はなかった。それでも仙台出張の際には東北最大のアマチュア大会「Aリーグ」を取材していた時に、同大会の主催ジムであるDRAGON GYMの佐藤亮会長から「関東から次の大会に凄い“天才少年”が来る」との連絡が入り、その天才少年こそが中学2年生の名高だった。 (以下、続く)

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