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【コラム】【印象に残った来日外国人選手④】王座戴冠前から絶賛されていたフランク・エドガー(執筆者:中村 拓己)

前回のコラムでは、いちはやくスクランブルの強さでMMAで結果を残していた選手としてジェイク・シールズを取り上げたが、今回はもう一人、自分のMMAの見方を変えてくれた外国人選手と、それにまつわるエピソードを書いていきたい。その選手は元UFC世界ライト級王者のフランク・エドガーだ。

ジェイク・シールズが修斗で活躍し、Rumble on the Rockに出場したのが2004年~2006年。その翌年2007年にエドガーはUFCデビューした。当時もエドガーの試合を見ていたはずだが…はっきり言ってどんな試合をしていたか全く記憶していなかった。判定決着が多かったこともあってか、試合そのもののインパクトが弱かったのだと思う。

特にこの時期のUFCのライト級はBJ・ペンが絶対王者に君臨し、ジョー・スティーブンソン、ショーン・シャーク、ケニー・フロリアン、ディエゴ・サンチェスら個性豊かな選手たちが次々と挑戦していた時代。ここで名前が出た選手たちに比べると、エドガーのファイトスタイルと勝ち方は見ている側の記憶に残るような強烈なものがなかったのかもしれない。コツコツと勝ち星を重ねているものの、インパクトは薄い。筆者はUFCでのキャリア初期のエドガーに対して、そんな印象しか持っていなかった。

その一方で当時から取材中にエドガーのことを高く評価する選手もいた。最初にエドガーの名前を聞いたのは岡見勇信にインタビューした時のことだった。2009年に「今のUFCにおける最先端の選手・理想系は誰だ?」というテーマで取材したときに、岡見がジョルジュ・サンピエール(GSP)と名前を並べたのがエドガーだった。

UFC世界ウェルター級王者として圧倒的な強さを誇っていたGSPは理解できたが、そこと並んでエドガーの名前が出てきたことにはものすごく驚いた。GSPと名前が並ぶ選手なのか、と。もちろんその疑問を岡見本人に問うと「エドガーはテイクダウンに入るタイミングが本当に絶妙なんですよ。足を使って動いて、打撃も使って、ここぞというタイミングでテイクダウンに入っている。あのタイミングは見ていて勉強になるし、練習でもエドガーのテイクダウンは参考になります」とエドガーを絶賛していた。おお、そんなにエドガーのテイクダウンは素晴らしいのか。そう思いながら取材を終えたことを覚えている。

そしてこの取材からほどなくして、再びエドガーの名前を聞くことになる。その取材は青木真也と金原正徳の対談だ。2人が対談の流れで、今よく見ている選手・試合として名前をあげたのがエドガーだった。話の内容としては青木がエドガーのことを高く評価し、エドガーVSタイソン・グリフィンをMMAのお手本になる試合として金原に薦め、それを見た金原もエドガーからは学ぶことが多いというもの。

2007年2月3日、UFC67におけるタイソン・グリフィンとのオクタゴンデビュー戦。倒されて立つ、倒されない──この攻防が、当時はトップファイターしか理解できていなかった

全く異なる取材で絶賛されるエドガーに俄然興味が沸いた。グリフィン戦をはじめ映像を見直してみると、細かいスタンドの打撃からのテイクダウン、その際の打撃、テイクダウンに入ってからの寝かせる技術、逆にテイクダウンを仕掛けられても寝かされない技術…など、決して派手ではないが、MMAで勝つために必要な技術がいくつも散りばめられていた。

取材を通してエドガーのクオリティの高さを知り、エドガーの試合を通してMMAという競技がどういうものかを学ばせてもらったような気がする。

そしてエドガーは2010年4月にBJ・ペンを破って、UFC世界ライト級王座に就くと、続くダイレクトリマッチでもBJに勝利。グレイ・メイナードとMMAの歴史に残る死闘を繰り広げ、一階級下のフェザー級でも王座戦を経験するなど大活躍し、2024年1月にUFC殿堂入りも発表された。

ほかの格闘技に比べて、MMAは歴史が浅い。また競技としての自由度が広い分、思いもよらない進化を遂げ、他の選手がやらないことや気づいていないことに気づく選手が結果を残しやすい側面もあるだろう。

これからもエドガーやシールズのような選手たちに出会えることが楽しみだ。

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