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【コラム】【あの頃君を追いかけた③】僅か6戦目で王座戴冠した那須川天心 天心“しごき部屋”に初潜入(執筆者:安村 発)

アマチュア時代に天心が所属していた足立区のジム「K-RIVER」から帰ろうとしたところ、最寄り駅まで天心の父・那須川弘幸さん(現TPPPEN GYM会長)の車に乗せてもらうことになったことを前回のコラムで記させてもらった。

車内では弘幸さんからお話を聞き、どのように息子を指導してきたか、ジム以外では自宅の一部屋を練習場所として使い、親子でマンツーマンで練習しているといったジュニア時代の“天心の強さ”はどのように作られてきたかの一端を知ることができた。

その中でも印象的な話が「僕が仕事終わって夜に練習することが多いんですけど、毎日の厳しい練習が嫌だったのか、車で帰ってきた音を聞くと、すぐにお風呂に入るんですよ。お風呂に入れば練習をサボれると小さいながらもそういう悪知恵が働いていたんでしょうね(笑)。俺は甘くはない。湯船に浸かっている天心の首根っこを掴んで無理矢理出させて、練習させていました」というもの。キック、今のボクシングでも毎日ハードトレーニングしている印象しかない天心にもそういう時代があったんだなと今改めて思った。

その後、当然のごとくキック・ムエタイの大会で優勝し続ける天心の姿はよく会場で見かけいた中、天心初取材の2010年から3年後のこと。シュートボクシングの大会で現SB女子世界王者RENAのプライベートレッスン体験を受けることができるという抽選会が行われ、誰が当たったんだろうな~と思っていたら「僕当たったんです!」と私に声をかけてくれたのがまさかの天心! 

これは雑誌の企画になるなと思い、取材することに。RENAも「アマチュアで凄い選手がいることは聞いていた」と天心の存在を知っており、RENAからシュートボクシングで認められる投げ技や二人のスパーリングの風景を取材させてもらった。

そして1年後、天心はRISEビッグマッチのリングで、それもRISEバンタム級7位というかなりの格上の選手を相手にプロデビュー。1R58秒、左ハイキックでKO勝利した時は衝撃的だった。今、多くのジュニア大会を取材し、将来有望株のジュニア選手のプロデビュー戦を見る機会も多くなってきたが、天心以上のインパクトあるプロデビュー戦をした選手は皆無だ。

その後、天心はプロ6戦目となった2015年5月31日、当時チャンピオンだった村越優汰が保持していたRISEバンタム級タイトルに挑戦。そこまで5連勝していた天心だが、さすがに別格のキャリアがありトップ中のトップだった村越には勝てない、やらせるのは早すぎるという声が多い中、1R終盤に天心はダウンを奪うと、2RにはスリーノックダウンでKO勝ちするというアップセットを起こしてベルトを獲得した。

自宅での練習風景を取材したいと思い、雑誌の取材で後日、自宅に行くことに。松戸にある自宅を訪問すると、二階に天心“しごき部屋”はあった。練習用に作られた約6畳ぐらいの一室にはマットが敷かれ、サンドバックやミットが置かれてあり、壁にはこれまで空手の大会で優勝した賞状がたくさん飾られてあった。それだけでなく、厳しいスパルタ指導がここで行われてきているんだろうなと一目で理解できる大きな穴の数々!

ジュニア時代には、大会で優勝しても、家で練習してきた動きが試合で出なかったら、大会後であっても帰宅後に何時間もその動きをこの部屋で天心は反復練習させられており、「父のプレッシャーは本当に凄かったので、タイトルマッチや大舞台のプレッシャーですら、父親のプレッシャーと比べると大したことないと感じてしまった」と振り返るほど、毎日の鬼のような練習漬けの日々があったことで当然のようにRISEタイトルを獲ることができたんだなと納得させられるものはあった。

このまま天心の成長を追い続けていきたいと思っている中、彼の方からいきなり連絡があった──。

「僕、来週初めて富士山に登るんです!」

 それを聞いて、天心を追いかけないわけがない。それまで富士山に登ったことがない私だったが、いい機会だと思って同行することに。そして事件は起こった……。(以下、続く)

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