2022年6月19日、那須川天心のキックボクシングのラストマッチとなった『THE MATCH 2022』の武尊戦。キックボクシングで当時、最強と言われていた天心と武尊の2人による対戦は、キックボクシングが日本で誕生して以降、ここまで盛り上がったカードはないのではないだろうか。
ジュニア時代から活躍し100戦以上の戦績をこなしてきた天心は2014年のプロデビューではRISEの現役ランカーの有松朝と対戦し左ハイキックで衝撃KO勝ちを収めて以降、その時に強いと言われてきた相手をきっちり倒して連勝を記録。武尊と対戦するまで41戦41勝無敗というとんでもない記録だった。ここ最近だと、ぱんちゃん璃奈、龍聖といった選手が無敗記録で話題となっていたが、ぱんちゃんは5月の巌流島バーチャルファイトでルシア・アプデルガリムに判定負けを喫し無敗記録は17でストップ。そして龍聖は6月のKNOCK OUTで久井大夢に敗れたことで、連勝記録は19で途切れることとなった。二選手の敗戦を見て勝ち続けることの難しさ、現在ボクシング界に転向しても勝ち続けている天心の凄さを改めて感じることとなる。対する武尊はというと、41戦のうちプロ6戦目で味わった敗北はあったものの、40勝というこれまた凄い記録だった。
二人の対決は東京ドームで行われ、試合では1R終了間際に天心がカウンターの左フックでダウン奪取。2、3Rと武尊が巻き返しを狙って前に出続けたが、天心が決定打を許さず判定勝ちで無敗記録を伸ばした。
天心が判定勝ちした瞬間、ジュニア時代から取材で追い続けてきた私にとっては1つの役割が終わったなと思うと同時に、格闘技とは違うジャンルの枠となるボクシングの取材はそれまでやったことがなかったので、これからは天心の取材がないかと思うと寂しさがあった……(現在は雑誌編集長のご協力もあって掲載することになり取材を継続中)。
天心を取材することになったきっかけを振り返ってみる。K-1MAXでの魔裟斗の活躍の影響を受けてか、ジュニア競技者数が増えていったことで、2009年5月からスタートした『M-1ムエタイチャレンジ』ジュニア大会と並んで同年12月に第1回大会さが開催された『WINDY SUPER FIGHT』。雑誌でジュニア選手を紹介する機会があり、どういう子たちがいるんだろうと事前に調べたところ「小さい頃から極真空手をやってきてキックボクシングでもむちゃくちゃ強い子がいる」という情報をキャッチ。その子が当時12歳の天心だった。試合を見ると、他の子とは違うスピード、当て勘、出入りの早さ、テクニックとずば抜けたものがあり、『こんな子がいるのか!?』と圧倒されたものだった。調べたところ、天心が当時所属していた足立区のジム「K-RIVER」には、天心以外にも平本蓮など3人のチャンピオンがいることが分かり、ジュニアチャンピオン育成法を探るべくジムへ。その時が天心初取材だった。
ジムでは元ルンピニースタジアム&プロムエタイ協会王者ペッマニー、元ルンピニー王者サクシーをトレーナーとして招聘し、練習内容はサクシーが組み立てたものであり、下半身強化のフィジカルトレーニングや長時間の首相撲、さらにムエタイの採点を意識したサンドバック打ちなど、タイのジムで取り入れている練習メニューがそのまま日本でやれていたことになる。習い事での小さい子といえば、休憩時間に友達とはしゃいだり、途中で先生やトレーナーの目を盗んで手を抜いて休んだりする光景が見られがちだが、天心はじめその場にいた子たち全員が約2時間も黙々と真面目にやっていた姿は今でも鮮明に記憶に残っている。ちなみにその時に天心に話を聞いたところ「K-1ファイターになりたいと思い、ここでキックを始めました」というものだった。
子供たちのそんな必死な姿を今までに見たこともなかったのでいい取材ができたなと満足し、帰り支度をしていたところ、「ジムから最寄り駅まで遠いから私が車で送ってあげますよ」とご親切に声を掛けてくださったのが、そのジムでトレーナーのお手伝いをしていた天心の父・那須川弘幸さん(現TPPPEN GYM会長)だった。そのことがきっかけで天心取材をさらに深く取材することとなる……(以下、続く)。