2012年に初開催されたAll Japan Jr Kick 藤原敏男杯 全国大会（以下藤原杯）は、当時行われていたアマチュアジュニア大会の中でもかなり激アツの大会だったといえるだろう。

藤原杯とは500年の歴史を誇るムエタイ史上、二大殿堂のひとつラジャダムナンスタジアムで初めてタイ人以外でチャンピオンとなった“キックボクシングの神様”藤原敏男が総監督を務めるジュニアキックボクシングの日本最強を決める大会だ。北海道、東北、関東、中部、関西、中四国、九州、沖縄の8地区で予選大会が行われ、各地区の代表が東京で決勝大会に臨み、日本一が決まるという、今でもここまで大規模で開催しているジュニアキック大会はない。

記念すべき第1回大会には、全国の地区予選から勝ち上がった王者クラスやトップランカーたちが多数集まり、30kg級では現在RISEで活躍する安本晴翔、50kg級は那須川天心、55kg級では現在SBエースとして世界強豪相手に好成績の海人がそれぞれの階級で優勝している。その他にも45kg級には男子に混ざって伊藤紗弥がエントリー。50kg級には朝久泰央、55kg級には朝久裕貴の朝久兄弟が出場と、なんとも凄いメンバーが揃っていた。

2014年に開催された第3回大会には40kg級では安本晴翔、45kg級では現RISEバンタム級王者の大﨑孔稀が優勝したほか、最軽量となる25kg級では――今が旬のあの選手が優勝している。

小柄でぽっちゃりした体格ながらも器用なテクニックを随所で見せ、精度の高い攻撃を繰り出すと、決勝戦では現在RISEランカーで活躍する塚本望夢を破って優勝したのが、のちにラジャダムナンスタジアム認定バンタム級王者となる松田龍聖だった。

ちなみに上の写真は同大会の優勝者たちで、左から松田龍聖、吉良大哉、田中将吾、安本晴翔、大崎孔稀、多根嘉帆、多根嘉輝となっている。

松田は5歳の時に読んだ漫画「はじめの一歩」の影響を受けて、近所にあった大原道場に通い、空手とキックボクシングを学ぶことに。入門当初は負けて泣いての繰り返しの臆病者だったというが、周りから評価されていた「持って生まれた野性的な動き」で徐々に勝ち星を重ねていき、中学生になるまでに200戦を経験。10以上のアマチュアタイトルを獲得している。

2021年8月のプロ転向後も順調に勝ち星を重ね、プロ8戦目で当時最強クラスの一角、及川道場の滉大を判定で下してホーストカップのスーパーフライ級タイトルを獲得した。その後もホーストカップを主戦場に快進撃を続け、今年4月にはRWS（ラジャダムナン・ワールド・シリーズ）日本大会で石井一成と対戦。松田はプロでは初のヒジ・ヒザありのムエタイルールでの試合となるが、「ジュニア時代に何度も経験しているので問題ない」と言い切り、その言葉通りムエタイで実績のある石井を相手にジュニア時代に同じく特徴的なスタイルでスピードとパワーのある攻撃を武器に真っ向勝負。

1Rにローブローでダウンを宣告されたものの（ムエタイではローブローはなかなか認められない）石井をKO寸前に追い込んだことでドローに。

その試合が評価されたことで、続く7月のRWS JAPANでは41連勝中とムエタイ界でもトップに君臨するクンスックレックの相手に大抜擢。それもクンスックレックが保持するラジャダムナンスタジアム認定バンタム級タイトルを懸けての一戦となった。

ムエタイ2戦目での挑戦となり、下馬評では当然、松田が不利と予想されるも、松田は1Rからクンスックレックの蹴り足をキャッチしてからのこかしを多用し翻弄。この一連の動きは、松田がジュニア時代からたびたび使っていたものであり、選手本人も「ずっとやってきたことがムエタイのトップ選手にも通用することがわかった」と振り返る。

1Rはクンスックレックの右ミドルを随所で当てられてポイントを取られたが、2Rに松田は左ボディからの右ストレートで豪快にKO！　ムエタイ2戦目で伝統あるラジャダムナンのベルトを巻くという歴史的な快挙を成し遂げた。

その後、9月21日に敵地に乗り込み、同ベルトを懸けてダイレクトリマッチを受けた松田はクンスックレックに完封されてベルトを失ったものの、フルラウンド最後までKO狙いのアグレッシブなファイトスタイルに会場からは歓声が沸き起こっていた。

これでクンスックレックとは1勝1敗となり、松田は「負けたけど負けていないです。絶対やり返します」とリベンジを宣言している。現在、立ち技界の中心にいる、松田含めて藤原杯卒業組の今後どう活躍していくか、一緒に夢を追いかけていきたい。