まさに死闘だった。

6月13日（木・現地時間）、米国コネチカット州アンカスビルのモヒガンサン・アリーナで、PFL2024年シーズンの第4回大会が開催された。そのメインカードで渡辺華奈がリズ・カモーシェとのリマッチに臨んだ。2021年6月に僅か35秒でKO負けを喫している相手に、開始早々に渡辺がダブルレッグで飛び込んだ瞬間から試合終了のゴングまで――いや、試合が終わってもしばらく涙が止まらなかった。

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女子MMAの試合でこれほど涙があふれたのは、2015年9月に浜崎朱加がエリカ・チブリシオを下して、Invicta FCの世界アトム級王座を奪取して以来だろうか。2015年といえば11月にロンダ・ラウジーがUFCでホリー・ホルムにKO負けを喫するなど、女子MMAの何かが変わり始めた年でもあった。筆者が渡辺華奈を始めて見たのは、そんな2015年だった。

同年5月に日本コマンドサンボ連盟の松本天心理事長から、ヴォルク・ハンが来日してサンボのセミナーを開催することを聞き、取材に向かった。場所は東京都武蔵野市にある格闘技ジム『kichijoji fit』。日本サンボ連盟の理事である安藤喜友氏が代表を務めるこのジムでは、安藤氏のサンボクラスに多くの柔道選手も参加していた。

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当時その中にいたのが、まだMMAを始める前の渡辺だった――と言いたいところだが、筆者が渡辺のことを認識したのは、彼女がMMAでプロデビューした2017年前後だ。2016年3月いっぱいでゴン格編集部を離れていた自分は、安藤氏がSNSで彼女のプロデビューについて触れていた時に「あっ! ヴォルク・ハンの時にいた選手か」と思い出した。

当時、渡辺は実業団に所属しており、柔道で強くなるためにサンボを学んでいたのだという。しかしkichijoji fitの練習会に参加していた上田貴央氏が、自身のジム『FIGHTER’S FLOW』をオープンしたことをきっかけに、MMAへの道を歩むこととなる。

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渡辺はプロデビュー当時、そのルックスとマッスルボディで注目を集めていた。自分が一度見たことがあるだけの彼女を覚えていたのも……、その点で印象に残っていたのだろうとは思う。ただ、渡辺は強さを何よりも追い求めてきた。それは柔道時代から、柔道で強くなるためにサンボ練習を取り入れていたことからも分かる。

思えば筆者がゴング格闘技編集部でアルバイトを始めた2001年当時は、まさに日本の女子MMA勃興期だった。UFC誕生後に日本でも女子だけのバーリトゥード興行が開催されたものの、中には怪しいというより、クロとしか考えられない試合も存在していた。

2000年に前年12月に女子総合格闘技トーナメント『Re-Mix』が開催されて以降、女子だけの総合格闘技興行が増えていく。しかし、いくら勃興期とはいえ「これがスポーツの興行なのか!?」と思えるようなシーンも数多く目にしてきた。

メインイベントのゴングが鳴った瞬間、一方がタオルを投げ入れて試合が終了する。対戦相手はその場で泣き崩れた。試合をする気がない、あるいは試合ができない状態であれば、なぜリングに立ったのか。

女子選手だけのチームで、セコンドがハイヒールを履いている。チームの選手に何かあった時、セコンドとして動けるはずがない……全く理解できなかった。

アイドルがメインで判定負けを喫したあと「アイドルなので顔を殴られたくないから、試合は今回かぎり」と発言する。その発言が出た直後、自分は「格闘技を舐めるなよ……」と悔しくなり、テープレコーダーを切って会見場を後にした。

等々、当時のトンデモエピソードは枚挙にいとまがない。ルックスやトーク、パフォーマンスのほうが重要視される傾向は、SNSが普及する遥か以前も強かったようにも思う。

渡辺はカモーシェ戦に向けたインタビューで「海外では練習していない自分が勝つことで、『日本で練習していても勝てるんだ』と思ってもらえるような、道になりたい」と語っている。この言葉を聞いて、2010年に藤井惠がBellator女子トーナメントに出場した時のことを思い出した。トーナメントでは準優勝に終わったものの、その道は浜崎がInvicta世界王者となることで繋がれた。

筆者が女子MMAを取材し始めて20年が経った。国内の女子MMA興行も大きく変わり、海外の団体と契約する女子ファイターも増えてきた。それでも日本と世界の差は開いている。しかし敗れたとはいえ渡辺がカモーシェとのリマッチで見せた戦いが、再び日本女子MMAの道を繋いでくれたと思いたい。

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