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【preview】他に比類すべきものがない心理戦。ポイント獲得に左右されるPFLで渡辺華奈が、世界の頂点=リズ・カモーシェに挑む

6月13 日(木・現地時間)、米国コネチカット州アンカスビルのモヒガンサン・アリーナでPFL2024#04=Professional Fighters League2024年シーズンの第4回大会が開催され、日本から出場する渡辺華奈がリズ・カモーシェと対戦する。

世界のMMA界にあって、UFCがイベントの規模、契約下選手の質と量と共に頂点に立つプロモーションであることは間違いない。いってみればUFCか、それ以外かという見方すれなりたつ。そのなかで今、PFLへの注目度は明らかに上がっている。

PFLは2018年6月に旗揚げ戦を行ったMMAプロモーションだが、その実態は2012年からMMAインダストリーにおいて世界第3位と見られたWSOF=World Series of Fightingの株式の大部分を投資グループのMMMAXインベスティメント・パートナーズが取得し、経営権を握った形で運営を引き継いだ。

WSOFファイターの契約を買い取り、MMA界にあってシーズンフォーマットを採用したのがPFLの最大の特徴といえる。6階級、1階級に10選手が参戦し、当初はレギュラーシーズン3戦と8人制プレーオフ(1日で準々決勝と準決勝を戦い)、最終的に賞金100万ドル(約1億5000円万)が掛ったファイナルが行われていた。

コロナ禍の2020年は1年間活動を休止し、今ではレギュラーシーズンが2戦。プレーオフは4人が進出、準決勝と決勝を別日に戦う。4月スタートで10月がフィナーレでスケジューリングされている。プレーオフ進出を決めるのは勝敗だけでなく、勝敗に戻づいたポイント制だ。勝者は3Pを獲得し、敗北は当然0点。加えて初回フィニッシュには3P、2Rでは2P、3Rは1PとボーナスPが加算される。つまりPFLのレギュラーシーズンは短時間で勝負を決めるファイターほど評価される形となっており、UFCを始め、世界中のMMA大会で推奨されるフィニッシュ勝利が、判定勝ちより価値があることがレギュレーションで明言されていることになる。

またインターバルが2カ月ということもあり、カットを防ぐためにエルボーの使用が禁止されているのも他大会とPFLの違いだ。このPFLが世界3位の大会からUFCに続くポジションを確固たるものとしたのは昨年、業界第2位のBellatorを買収し、傘下に収めたからである。

選手のバリュー的にもBellatorがPFLの上位にあったのは事実で、サークルケージで戦っていたファイターたちは契約を履行するのが買収する側の義務でもあり、PFL首脳はBellatorの名を残した従来の興行形態をとるBellator Champions Seriesをスタート。Bellator世界王座も残し、チャンピオン達はPFL所属でBellator王者を名乗っている。

加えてUFCや旧Bellator、ONE、BRAVE CFのように国境を越えてグローバルな活動を続けるイベントは存在しているが、ここでもPFLはその独自性を発揮している。それがPFL EuroとPEF MENAだ。Euroは文字通り欧州、MENAは中央&北アフリカを舞台に同地域の選手の発掘と育成、再生を目的とした地域&独立リーグだ。

リング使用のRIZIN、ムエタイ&キック&グラップリングとの混合イベントとなったONE。大手プロモーションは、それぞれ個性を持っているが──PFLのソレはNBAやNFLが用いた米国メジャースポーツの方法論ともいえる。そんななか基本的には前年シーズンのトップ4が契約更新され、他の6人はニューカマーが本戦契約をしてきたPFLにあって、今年はBellatorファイターの名前が数多く確認できる。

©PFL

渡辺とカモーシェも、BellatorからPFLに活躍の場を移したファイターであり、Bellator世界王者からPFLシーズンに挑むことになった唯一のチャンピオンがカモーシェだ。そして、この両者は3年前の2021年6月に対戦しており、渡辺は僅か35秒でKO負けを喫している。結果論として、このカモーシェ戦の秒殺があってなお、世界のトップになることを諦めなかったことで渡辺はMMAファイターとして大いに成長できた。

柔道出身、フィジカルの強さは日本では抜けていた彼女は、その体の強さを武器に打撃、そして寝技を駆使し結果を残してきた。ただし、本場のレベルは違う。相手の攻撃を受けない、頭を振って打撃を使う。貰う覚悟はあっても、貰わない距離で戦うための技術力を渡辺は向上させてきた。力技で殴って、組んで投げてきた日本時代と違い、組みという武器も、打撃の進化と歩調を合わせるかのように変わった。

MMAの距離に必要なレスリング流のテイクダウンをモノにし、バック奪取能力が上がった。遠い距離から戦うことで打撃における欠点を補い、組みではより柔道技が生きるという風に長所を伸ばしてきた。カモーシェ戦以降の渡辺の戦績は3勝1敗、その1敗も前Bellator世界女子フライ級王者イリマレイ・マクファーレンに喫したスプリット判定負けで、カモーシャは「カナが勝っていた」と断言するほどの接戦だった。

実力を認め合った両者が、プレーオフ進出を賭けてBellatorの常打ち会場だったモヒガンサンで戦う。しかも、ポイント制の妙技、いやプロモーションの力業というべきマッチメイクにより、2人揃ってボーナス獲得が絶対という状態で拳を交えることになる。

©PFL

4月の第1戦、渡辺もカモーシェも判定勝ちで持ち点は3P。カモーシェがランク4位で渡辺は5位。上位勢では昨年、PFL欧州を制した親子鷹でルックスの良さからもPFLが猛プッシュするダコタ・ディチェバは6Pを既に挙げており、今回の対戦相手も7位のチェルシー・ハケット(0P)で、加点はまず間違いない。

©PFL

一方元UFCタイトルコンテンダーで、実力的にはカモーシェ、渡辺と並び優勝候補のタイラ・サントスは現在2位ながら、彼女と同様に6Pを持つ3位のジェナ・ピショップとの潰し合いを強いられる。

渡辺とカモーシェは女子フライ級では最後から2試合目で戦うことになっており、それまでの試合結果=ポイント状況を見極めて戦う必要がある。初戦で3度目のカモーシェ戦も敗れた元Bellator世界女子フライ級王者のジュリアナ・ヴェラスケスを含め、無得点同士で争われる2試合の行方はともかくとして、サントス×ビショップの勝者が9Pに加えて、どれだけ+αがあるのか。

試合直前、覚悟を決めるなかでのポイント計算──これこそPFLだけに存在する戦い。渡辺としては防御に徹しきられただけでなく、フィニッシュに焦りを見せた4月のシェナ・ヤング戦と違いボーナス獲得必至の真っ向勝負が待ち受ける。そんなカモーシェとの再戦こそ、この間の成長を全て出し尽くした上で、精神的にも必死のなかでほんの少しの余裕が求められる戦いとなる。このような戦いができる日本の女子MMAファイターは、渡辺華奈ただ一人。最高の晴れ舞台だ。

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