6月8日(土・現地時間)、タイはバンコクのインパクト・アリーナで開催されるONE167が開催される。今大会では元K-1 2階級王者の野杁正明がONEデビュー戦を迎え、フェザー級(70.3キロ)キックボクシングルールでシッティチャイ・シッソンピーノンと対戦する。
武尊に続く日本のビッグネーム=野杁正明のONE参戦は日本の立ち技ファンにとってビッグニュースになった。野杁は10代の頃から強豪選手として名を馳せ、2009年のK-1甲子園優勝をきっかけに表舞台に出ると、2010年3月に16歳の若さでプロデビューを果たす。プロではKrushを中心にキャリアを積み、2015年からは新生K-1を主戦場に戦うようになった。
2017年6月にゲーオ・ウィラサクレックに判定勝利して、第2代K-1スーパー・ライト級(65kg)王者に就くと、1度の防衛を経て、ウェルター級(67.5kg)に転向。2021年の第2代K-1ウェルター級王座決定トーナメントでは1回戦でFUMIYA、準決勝で寧仁太・アリ、決勝で安保瑠輝也を3連続KOで下して、第2代王座戴冠とK-1での2階級制覇を達成した。
2022年6月の「THE MATCH 2022」ではシュートボクシングの海人に延長判定負けを喫したものの、2023年からK-1スーパー・ウェルター級(70kg)転向を視野に入れて、3月にジャバル・アスケロフ、7月にアマンシオ・パラスキフを2試合連続でKOし、改めてその強さを見せつけた。
野杁はパラスキフ戦後のリング上で「これからは世界のトップとしか戦わないので、世界のトップに挑戦していく今後の野杁正明にご期待ください」と本格的に70kgで世界のトップを目指すと宣言し、K-1が新体制でK-1 WORLD MAXを復活させるなか、野杁はK-1との契約解除=ONEへの挑戦という道を選んだ。
そして「ONEに出るからには最初からランカーやトップ選手とやりたい」という野杁に用意された相手は、元GLORY世界ライト級(70kg)王者、現ONEフェザー級(70.3kg)キックボクシング3位シッティチャイ・シッソンピーノンだ。
2020年からONEに参戦しているシッティチャイだが、世界的な評価を高めたのは2015年から2019年まで参戦していたGLORYでの戦いだ。GLORY参戦前からタイ・海外で実績を積んでいたシッティチャイは、GLORY初参戦となったGLORY22のコンテンダートーナメントでダビット・キリアとジョシュ・ジョンシーを下して王座挑戦権を獲得。王座初挑戦となったロビン・ファン・ロスマーレン戦では判定負けでベルトには手が届かなかった。
その直後に中国・Kunlun Fight WORLD MAXトーナメントで優勝すると(準決勝ではスーパーボン・シンハ・マウインに勝利)、翌2016年のGLORY28のコンテンダートーナメントではキリアとマラット・グレゴリアンを下して再び王座挑戦権を得て、ロスマーレンへのリベンジを果たしてGLOR世界ライト級王座に就いた。
ここからシッティチャイはクリス・バヤ、グレゴリアン、ディラン・サルバドール、テイジャニ・ベスタティ、グレゴリアン、ジョンシーを下して6度の王座防衛に成功し、2019年5月にグレゴリアンに王座を明け渡すまで、約3年間GLORYのベルトを巻き続けた。
GLORYでの実績を引っ提げて参戦したONEでも2戦目でタワンチャイ・PKセンチャイムエタイジムを下し、2021年から2022年にかけて行われたフェザー級ワールドグランプリで決勝に進出。チンギス・アラゾフに敗れて優勝には手が届かなかったが、前評判通りの強さを見せている。直近ONEでの2試合ではムエタイルールでモハメド・シアサラニ、通算6度目の対戦となったグレゴリアンに敗れて連敗を喫しているものの、前述したGLORYでの輝かしいキャリア、そうそうたる面々に勝ってきた実績から、間違いなく世界の70kg戦線のトップに位置する選手だ。
野杁のファイトスタイルは強固なブロッキングで対戦相手にプレッシャーをかけ、相手を下がらせながら攻撃を顔・ボディ・足に散らす、空手ベースでヒジ・首相撲なしのルール(K-1ルール)に特化したスタイルだ。一方のシッティチャイはサウスポーに構え、蹴りで距離を取りながら間合いに入ってくる相手に左の攻撃を合わせることを得意にしている。野杁が空手なら、シッティチャイはムエタイスタイルをヒジ・首相撲なしのルールに適応させたスタイルと言える。
距離を詰めて近距離で攻撃を散らしたい野杁と、距離を取って左の攻撃を合わせたいシッティチャイ、どの距離・間合いで戦うかが勝敗のポイントになるだろう。そこで一つのモデルケースになるのがONE日本大会でのグレゴリアンVSシッティチャイの一戦だ。 グレゴリアンは開始直後からプレッシャーをかけ続け、シッティチャイの左ストレートやヒザ蹴りを受けても下がらず、左ミドルにはインローや右ミドルを蹴り返して距離を詰めた。シッティチャイがロープを背負うとボディへの攻撃で動きを止め、最後はボディへのヒザ蹴りでシッティチャイを沈めている。
このグレゴリアンの戦い方は野杁が得意とするパターンでもあり、この部分をピックアップすれば相性的に野杁有利とも言える。その一方でこの試合がケージで行われることを忘れてはいけない。
野杁がケージで戦うのは今回が初で、野杁自身「ケージはあんまり気にしない」としつつも「リングの方が詰めやすいとは思います」と話している。逆にシッティチャイはONE参戦以降、ケージでの試合を5試合戦っており、この経験値の差は大きい。またシッティチャイは野杁と2度対戦しているゲーオ・ウィラサクレックを特別コーチとして招聘し、ゲーオと共に野杁対策を練ってきた。
ファイトスタイルの相性では野杁、ケージでの経験値ではシッティチャイといううえで、両者の距離の戦いに注目してもらいたい一戦だ。