
12月12日(日)、東京・ニューピアホールで開催されるDEEP 105 IMPACTで、前DEEPミドル級王者の水野竜也がメガトン級に参戦し、誠悟と対戦する。
今年7月のミドル級王座防衛戦で、ジョアオン・バチスタ・ヨシムラにKO負けを喫した水野。無冠となり、再スタートの場所として挑んだのは、DEEPの無差別クラス=メガトン級だった。
プロデビュー当初はヘビー級で試合をしていたが、それも10年以上前の話だ。長年ミドル級を主戦場としていた水野が、なぜメガトン級で試合をすることになったのか。
その理由のなかに、水野の本気度が見えた。
――今回の誠悟戦からDEEPメガトン級で戦うことが発表されました。メガトン級とは無差別級です。ここ数年はミドル級で試合をしてきた水野選手が、なぜメガトン級で戦うことになったのでしょうか。
「佐伯さん(佐伯繁DEEP代表)と話をしていて、もうミドル級ではやりつくしてしまって、国内でも対戦相手がいない。かといってコロナ禍で海外から選手を呼ぶこともできない。だからミドル級では試合を組むことが難しい、ということだったんです」
――そうですね。軽量級は国内でベテラン勢もいる一方、新しい世代の選手もどんどん出てきていますが、もともと層が厚くない国内の中重量級のマッチメイクが難しくなっていることは分かります。
「やはり僕は定期的に試合をしたいんです。試合をすることが格闘家の仕事だと思うので。そうなると、ミドル級で相手を探し続けているために試合ができないよりは、階級を上げてみるのも一つの方法なんじゃないか、という話になったんですよ」
――なるほど。
「もともと自分はヘビー級でやっていましたし、今も練習相手がシビサイ(頌真)だったりするんです。だから実は、ヘビー級ってそこまで凄くかけ離れたものではないんです、自分の中では」
――あぁ、そういうことですね。メガトン級という名称ではありますが、水野選手の中ではヘビー級なのだと。
「分かります。メガトン級って、どうしても興行の中の箸休め的なイメージもあるじゃないですか。でも、そういうイメージも含めて変えていきたいと思っています」
――もともと水野選手は、デビュー当初はライトヘビー級やヘビー級で試合をしていました。DREAMでミルコ・クロコップと対戦したこともあります。そこからミドル級で試合をするようになった理由は、何だったのでしょうか。
「重量級だと日本人選手も少なくて、海外のトップどころと対戦することが多かったんですよね。そのなかで、骨格や体格――もともと持っているサイズの違いやフィジカルの違いに追いつけないと感じたんですよね。それでミドル級に」
――ミドル級で戦っている時は、通常体重は何キロぐらいだったのですか。
「普段は98キロぐらいありました。そこからミドル級(83.9キロ)まで減量して。ただ、減量がキツいということもなかったので、今回メガトン級で戦うのも減量苦とかネガティブな理由ではないんです。反対に、ヘビー級で試合をするうえで、しっかりとした体が作れるのか。そういう不安はありました」
――ということは今、ヘビー級用の体づくりをしているということですね。
「メガトン級で戦うという話をしてから、今はウェイトトレーニングが中心になっています。かなり良い状態になっていますよ。ただ太っているのではなく、周りからも『体の厚みが違うね』って言われます」
――現在の体重は何キロですか。
「だいたい105キロぐらいです。コーチや周りの選手に聞いても、その体重でもスピードが落ちていない。動きづらさも感じない。スパーリングでもパワフルに動くことができている。ミドル級の時と比べても遜色ないそうなので、体づくりには成功していると思います」
――スピードが落ちていないのは良いですね。ボクシングも含めて日本人選手が重量級に挑んだ際、パンチ力や技術では負けていなくても、スピード差が明白だったことも多いです。日本人の骨格が、その体重で戦うことに向いていないのか……。
「それが今、体を大きくするトレーニングだけやっているんですよ。そんな練習スケジュールは初めてです。でも自分に合ったやり方を探して。僕がやっている方法が正しいのかどうかは分からないけど、スピードが落ちていないのは、やり方が自分に合っているのでしょうね」
--これから試合まで、もっと通常体重は増やすのですか。また、試合は何キロぐらいで挑もうと考えているのでしょうか。
「今ちょっと腹周りに脂肪が残っているので(苦笑)、見られる体つきにはしたいです。ただ、試合当日も100キロより下にはならないと思います。バキバキの体だから強い、っていうわけではないですけど、やっぱり説得力のある体つきにはしたいじゃないですか。石井ちゃん(石井慧)ぐらい、見せられる体にしたいですよね」
――ウェイトトレーニングが中心となり、体重が増えてもスピードが落ちない状態になったことで、他に良い影響を与えている部分はありますか。
「メンタル的に若返っているかもしれないです」
――……確かに、現在の状況を語る水野選手は、なんだか楽しそうです。
「アハハハ。今までは何とか技術でこなしてきた部分も多かったんですよ。でも、あえて強引に行くべき時に行けないこともあった。前回の試合で負けたのも、そういうところだと思うんです」
――というと?
「綺麗に試合しすぎていたんです、もっとガムシャラに行っても良かった。試合をしていて、このまま行けば2Rも3Rも取られることはないだろうと思っていました。でも2R、ケージに押し込んだ時にもらったバックブローが効いてしまって……。そこから盛り返すことができませんでした」
――結果、2RでKO負けを喫してDEEPミドル級のベルトも失いました。今はそんなメンタル面も変わってきたのでしょうか。
「練習では岡見(勇信)さんから『大丈夫?』って心配されています(笑)。スパーでは前に出て、強引に殴り合う時もあるんですよ。岡見さんが『やりすぎじゃない?』と指摘してくれるぐらいで。でも、それぐらいキツいスパーで自分を追い込むことができる。昔の自分はそうだったな、って思うんです」
――ここで水野選手が誠悟選手に勝てば、国内ヘビー級が盛り上がりそうですね。9月に誠悟選手を下したSAINT選手や関根“シュレック”秀樹選手、RIZINに出場しているスダリオ剛選手など対戦相手の幅も広がって。
「そうなんですよ。佐伯さんも国内のヘビー級を回していくために、僕に階級を上げる話をしてくれたんじゃないかな、って思います。そこに絡んでいけたら面白いですよね」
――DEEPやRIZINで、ヘビー級トーナメントが行われる可能性もありますね。では、そんなヘビー級復帰戦となる次の試合についてお聞きします。まず前回のSAINT×誠悟戦については、どのような印象を持っていますか。
「あの試合は、SAINT選手の作戦勝ちでしたよね。でも、僕はSAINT選手がもっと差をつけて勝つと思っていました。誠悟さんも組んだら強いですから」
――誠悟選手が上になって抑え込んでくるとキツそうですね。
「キツいですよ。誠悟さんとは、10年前ぐらいに吉田道場で練習していた時期があるんです。あの払い巻きこみと袈裟固めは驚異です。そこは気を付けて、上のポジションは取らせたくないですね」
――SAINT選手も、速いパンチでペースを握っていました。誠悟選手との試合は、そうした打撃がポイントになるのでしょうか。
「パンチに関しては、圧倒的に僕が優位だと思います。だからパンチでかき回しながら、最後は極めたいですね」
――極めたい……前回のインタビューでは、何よりも勝つことを優先する旨の発言がありました。それが水野選手のファイトスタイルだったと思います。そのファイトスタイルも変化するということなのでしょうか。
「……葛藤があるんです。絶対に勝ちに行く自分と、カッコいいと思う戦いを表現したいという自分がいて。そういう試合をしながら勝つ、っていうのが理想でしたけど、それって邪念じゃないですか(苦笑)」
――……。
「悩んでいました。でも、それも違うのかなって。勝つために試合をして、結果的に白熱した内容になった。それが格闘技なんじゃないかって、他の人に言われたんです。勝ちを求めた先に、白熱した内容がある。だから僕は、勝つために戦います」