
12月12日(日)、東京・ニューピアホールで開催されるDEEP 105 IMPACTで、牛久絢太郎の持つDEEPフェザー級王座に神田コウヤが挑戦する。
今年6月に神田が平田直樹とのニューカマー対決を制したあと、牛久は10月に斎藤裕を下してRIZIN世界フェザー級のベルトを巻いた。その牛久と戦う神田は、RIZINのタイトルマッチをどのように見ていたのか。
そこには意外な事実と、DEEPのベルトに懸ける神田の想いが秘められていた。
――まずは牛久選手の持つDEEPフェザー級王座に挑むことが決定したことについて、感想をお聞かせください。
「決まった瞬間はホッとしました。タイトルマッチの内定自体は、3カ月ぐらい前から聞いていたんです。でも牛久選手がRIZINで斎藤選手に挑戦することになって……その内容や結果次第でどうなるかは分からないじゃないですか」
――牛久選手が勝っても大きな負傷があれば、DEEP王座の防衛戦ができるかどうか分からないですからね。
「メンタル的にも不安な日々を過ごしました。鶴屋(浩)代表からは『大丈夫、DEEPのタイトルマッチが無くなることはない』と言っていただきつつ、正式に決まった時は安堵感がありました」
――まず今年6月に平田直樹選手を判定で下した時は、次はタイトル挑戦だと考えていましたか。
「はい、そう思っていました」
――となると、神田選手としては複雑な心境でRIZINの結果を待つことになるわけですよね。タイトルマッチはやりたい、でもRIZINで負けた選手に挑戦することになれば……。
「まぁ、前の試合で勝った選手か負けた選手、どっちとやりたいかと言われたら、勝った選手とやりたいですよね。それと、あの試合については他にも複雑な気持ちがありまして」
――他にも複雑な気持ちとは何でしょう?
「僕は大学生の頃から、RIZINのチケットを買って見に行っていたんです。それだけRIZINのファンで、特に斎藤選手を応援していたんです」
――えっ、そうだったのですか!?
「ですから先日の試合も、斎藤選手には勝ってほしい、でも負けた牛久選手とDEEPのタイトルを争うのは……っていう複雑な気持ちで見ていました(苦笑)」
――そこは次に対戦する牛久選手の試合を、対戦相手として見ていたというわけではなく。
「そうなんですよね……」
――試合は斎藤選手が牛久選手のヒザ蹴りで顔面をカットし、牛久選手のTKO勝ちとなりました。ファイターとして、この試合をどう見たか教えてください。
「結果が全てですからね。あのカットがマグレだとか、一切思っていないです。僕もカットで勝ったことはありますし」
――斎藤選手がペースを握っているように思いましたが、牛久選手もあのヒザ蹴りは完全に狙っていたわけですから。
「あのヒザ蹴りは練習していたみたいですね。しかも、初参戦の舞台で狙っていたものを当てる、それを引き寄せるのが凄いと思います。牛久選手は試合中も、ずっと落ち着いていて」
――では次に、対戦相手としての牛久選手の印象を教えていただけますか。
「スクランブルに持っていかせると強いと思います。そのスクランブルの強さを持続できるスタミナも凄い。決して体が大きいわけではないけど、見た目以上の体の強さがありますよね。それは昔、練習した時から感じていました」
――牛久選手と練習したことがあるのですか?
「はい。まだ牛久選手がDEEPに参戦するかしないか、ぐらいの頃でした。週1回、パラエストラ松戸のプロ練習へ、出稽古に来ていたんです。階級が同じなので、練習で当たる回数も多かったですね」
――当時は、牛久選手との間に差を感じていたのでしょうか。
「差はありました。自分は全く打撃ができていなかったし、組みでも極められたりして」
――その頃、牛久選手を将来の対戦相手として見据えることもなかったのですか。
「対戦するとか考える余地もなく、自分もガムシャラに練習していた頃でした。でも、当時よりは自分も強くなっています。本番に勝る練習はない。あれから命懸けで戦ってきて、その試合から得たものは大きいです」
――命懸けの戦い……前回の平田戦は派手なシーンこそ無かったものの、緊張感のある命懸けの内容だったと思います。
「あの試合は、自分の中では『もう少しいけたかな』という気持ちがあります。でも相手のやりたいことはやらせなかったのは、良かったと思います」
――相手のやりたいことをやらせない、それは神田選手にとって一番の成長なのですよね。
「昔は相手を秒殺しようとか、相手をぶっ飛ばす強さを見せようという気持ちが強くて、結果はガス欠で負けたり……という試合もありました。そこから負けない強さ、やりづらい強さを身につけるために練習してきました。平田戦でもテイクダウンは取られましたけど、ずっとテイクダウンさせない練習のほかに、倒されてからの練習もしていたので」
――そこで「もう少しいけたかな」とは、どんな点に対して感じたのでしょうか。
「もう少し組みの展開で、自分が見せるものもあったかなと思います。でも平田選手のスタミナが想像以上で。それでも自分が攻める時間を、もっと作らないといけないですね。これは牛久選手との試合も同じかもしれないです」
――その牛久選手との試合に賭けられるDEEPのベルトについては、どんな想いを持っていますか。
「DEEPのベルトを意識したのは、RIZINで負けてからです。あの時にDEEPのベルトを獲ってからRIZINに出直そうと、鶴屋代表と話をしました」
――2020年11月、RIZINで関鉄矢選手にKO負けを喫した試合ですね。あれから1年3カ月、この年月は長かったですか。それとも短かったですか。
「どうでしょうね……デビューから考えると、タイトルマッチにたどり着くまで長かったです。勝ったり負けたりで、苦しい時期もありました。でもジムの先輩を見ていると――岡田(遼)さんは10年以上やって修斗のベルトを獲得されたじゃないですか。自分よりもっと苦しくて、苦労されている人たちがいる。チャンピオンではなくても、みんな仕事もありながら苦労して練習している人がいる。そういう仲間を見ると、自分も頑張らないといけない、って思うんです」
――なるほど。改めて考えると以外だったのですが、チャンピオンメーカーと呼ばれるパラエストラ千葉ネットワークも、まだDEEPのベルトを獲得した選手はいないのですよね。
「そうなんです。修斗やパンクラスのベルトはあって、ONEのベルトもあるのに、DEEPだけは獲得できていないんですよ」
――鶴屋代表からは、初のDEEP王者誕生へプレッシャーをかけられていませんか。
「以前は言われていましたが、最近は何もないです。たぶん、言われなくても分かっているだろうな、っていうことだと思うんですけど(笑)」
――さらに牛久選手を倒せば、DEEP王座の獲得と同時に、RIZIN王者に勝つことにもなります。そこは意識しますか。
「うーん……ルールが違うと、別競技じゃないですか。DEEPとRIZINでいえば、ケージとリングで違いますし、RIZINには4点ヒザやサッカーボールキックがあるので、別競技だと思っています。だからDEEPルールで牛久選手に勝っても、それとRIZINとは別の話ですよね」
――前回のインタビュー時にも感じたことなのですが、神田選手ってすごく現実を見ていますよね。多くの選手は、同じ立場ならRIZIN王者に勝つということを意識するように思います。
「現実を見ていますよ。僕には夢を見てRIZINに出て、現実を味わったという過去があるので。別にRIZINに出ても、RIZINが自分の理想を作ってくれるわけではないんですよね。僕に実力がないと意味がない。RIZINでの負けは、そういう糧になっています」
――なるほど。次の試合に向けて、牛久対策はできていますか。
「はい。でも一番の対策は、相手がどうこうよりも、自分がどうあるべきかだと思います。自分の悪いところを消して、良いところを増やす。それが大事だと思って練習しています」
――分かりました。では最後に、タイトルマッチへの意気込みをお願いします。
「牛久選手が煽り映像でDEEPへの思い入れを語っていましたけど、DEEPで育ってきたのは僕ですよ。プロデビューからDEEPで試合をしてきて、DEEPに懸ける想いは負けていません。そこは絶対に譲らない。最後まで自分の信念を貫いて、勝ちます」