
9月23日(木・祝)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP 103 IMPACTでは、元ストロー級王者の越智晴雄が、1年ぶりの復帰戦を行う。
越智は2008年に修斗でプロデビューし、2013年からDEEPへ戦いの場を移し、2017年9月には同ストロー級王座を獲得した。
そして翌年にはRIZINに出場して、パンクラスのストロー級王者・砂辺光久との王者対決をKO勝ちで制している。
その後、DEEPストロー級王座の防衛には成功したものの、RIZIN(ベラトール日本大会)でジャレッド・ブルックスに敗れ、さらに昨年8月には河原波輝にDEEPのベルトも奪われた。
そんな越智がフライ級に転向して迎える渋谷カズキ戦は、どのような意味を持つのか――
現在の越智のモチベーション、そしてフライ級転向に懸ける想いを聞いた。
――2020年8月に、河原波輝選手に敗れてDEEPストロー級のベルトを失ってから1年ぶりの復帰戦となります。この1年間は、どのように過ごしていたのでしょうか。
「河原選手に負けてベルトを失って、正直『もういいかな』という気持ちがありました。明確に『もう辞めよう』と思っていたわけではないですけど、気持ちは半々でしたね」
――えっ、引退も視野に入れていたのですか。
「もともとジャレッド・ブルックス戦の時が、一番モチベーションが高かったんです。だからジャレッドに負けた時、自分の中でもやり切った感じがありました」
――2019年8月、RIZINでジャレッド・ブルックスと対戦し、負傷でノーコンテストに。同年12月のベラトール日本大会で再戦して(RIZINルール)、判定負けを喫しています。
「僕は、ずっと世界で一番になることが目標でした。そのなかで、僕が戦っていたストロー級の存在を知ってもらいたいと思って、RIZINに出場したんです」
――UFCにはストロー級がありませんし、RIZINでも主に行われているのはバンタム級が中心ですよね。
「そこで僕が活躍することによって、国内外からストロー級の強い選手がRIZINに集まるようにしたかった。もちろん自分が勝手に思っていたことですけど……。でも、ジャレッド戦は負けたし、注目してくれるような試合内容でもなくて」
――そして、次の試合で河原選手に敗れ、DEEPストロー級のベルトも失いました。
「負けるべくして負けた、という感じです。コンディション面も、モチベーションの面も。もちろん『やってやろう』という気持ちはありましたけど、結果的にはそういう面で下がったと思いますね」
――引退かどうか気持ち半々だったとのことですが、その時期の練習は……。
「練習はしていました。といっても、趣味に近い状態ですけど。ただ、練習相手が強い選手ばかりなので、当然やられてしまうんですね。やられると、僕もモチベーションが上がってきて(笑)」
――アハハ、やはり根っからのファイターなのですね。
「そうですね。今年の3月から徐々に練習量を増やしていきました。ただ、復帰しようと思ったキッカケは、RIZINで那須川天心選手の相手を募集していたじゃないですか」
――はい。今年6月13日の東京ドーム大会では、ミスターXという形で那須川天心選手の対戦相手を公募していました。
「実は、あれに出ようと練習していたんです。SNSでも出場をアピールしていました」
――そうだったのですか!
「そこで以前のように、試合感覚の練習を行っていました。当日はミスターXとして所(英男)さんが出ましたけど、僕も『また試合に出たいと』スイッチが入ったんですよ」
――なるほど。そこでストロー級からフライ級に上げた理由は何だったのでしょうか。
「RIZINでストロー級を盛り上げること、そしてDEEPのベルトを失ったことが大きいです。僕は世界のトップ選手でもないし、またベルトを獲り直してからRIZINに出て、もう一度ストロー級を盛り上げていく……という
のは、年齢的にも難しいと思いました」
――越智選手も2008年プロデビューで、現在37歳。もうベテラン選手です。
「フライ級はRIZINでも行われていて、国内でも選手が揃っているから、これから盛り上がっていく階級だと思うんですよ。フライ級でベルトを獲ってから、RIZINに出て注目されたい。それが今の目標です。率直にいえば、稼ぎたいんです」
――……。
「今は格闘技で稼ぐことが、一番のモチベーションです。世界一になることよりも、注目されて稼ぎたい。昔はそんな感覚がなかった。ただ強くなりたい、自分の強さを証明したい、世界一になりたい……それだけが全てでした」
――「稼ぎたい」という気持ちが強くなったのは、いつ頃からでしょうか。
「結婚して、子供が生まれてからです。RIZINの砂辺戦(2018年9月、砂辺光久にKO勝ち)の頃に結婚して、今は2歳になる息子がいます」
――家族を食わせていくために稼ぐ、という気持ちは分かります。選択肢として、格闘技以外の道はなかったですか。
「他の仕事をすることも考えはしました。でも、僕も格闘技ばかりやってきたじゃないですか。そこで格闘技以外の何かで……と考えても、何をやるか思いつかないんですよね。それは格闘技が好きだからだと思うんですけど」
――だから、好きな格闘技で稼いでいくと。
「はい。格闘技しかできないというより、格闘技が好きだからやっている。好きな格闘技で稼ぎたい。そう思っています」
――ご家族はどう考えているのでしょうか。
「妻は『格闘技をやめてほしい』とは言わないです。本心では不安だろうし、何でもいいから安定した仕事をしてほしいと思っているかもしれません。でも、僕が好きな格闘技を続けることを応援してくれています」
――それは嬉しいですね。
「理由はもう一つあるんです。実は、子供が生まれてから勝っていないんですよ。まだ2歳だから、今は見ても分からないかもしれないけど、息子が分かるようになるまで戦い続けて、勝ちたいです」
――では、現在のDEEPフライ級については、どのように見ていますか。同日はフライ級タイトルマッチも行われます。
「チャンピオンの藤田大和選手は、すごくバランスが良いですよね。ボクシングはもちろん、組み技も強いですし。元ボクサーだからテイクダウンして……という単純な作戦も通用しない。今やっても、厳しい面があると思います。まず僕自身が、フライ級でどれだけやれるのか。次の試合が大切になってきますね」
――そのフライ級初戦の相手、渋谷カズキ選手の印象を教えてください。
「極めの選手ですよね。極めに特化していて、怖さはあります。足関節とか。でも、フライ級のトップ選手ではないし、ここで負けるようでは、僕も先がないですからね。必ず勝たないといけない試合です」
――気になるのは、スクランブルの展開です。ジャレッド戦と河原戦は、ケージ際のスクランブルでバックに回られる展開が目立ちました。
「はい……もともとスクランブルは、そこまでやってこなかったんです。バックを奪われる前にエスケープしないといけない。でも、その前にテイクダウンから固められていました」
――渋田選手は足関節を仕掛ける展開以外にも、シングルやダブルからバックに回ることも多いファイターです。
「動きが速くて柔らかいし、僕との試合でも当然バックを狙ってくるでしょうね。自分でも分かっていますし、今は練習でもスクランブルやエスケープの精度が高まっています。フライ級で新しい自分を見せて、必ず勝ちます」